正課外の地域活動プログラムにつなげる初年次PBLの試み
2015ダブルホーム活動入門
櫻井典子・新潟大学教育学生支援機構
概要:「ダブルホーム活動入門」は、新潟大学ダブルホーム活動の導入授業として初年次学生を対象に開講している。ダブルホーム活動とは、地域が持つ教育力を活用して学生の汎用的能力を向上させることを目的とした新潟大学の学生支援プログラム(正課外活動)である。本授業は、学生たちがダブルホーム活動へのモチベーションを高め、チームで地域活動に取り組むための心構えを身につけることを目的としている。地域の人々の暮らしや歴史に触れ、地域が持つ魅力や課題を発見し、自分の立場から解決方法を考えていくPBL(Project-Based Learning)と位置付けている。
コースの基本情報
コースの目的と内容
授業は、ダブルホーム活動への動機づけを行い、受講生がチームで地域活動に取り組むための心構えを身につけることを目的とし、チームワークや地域活動の意義や方法を学べるように設計している。受講生は、地域の中で人々の暮らしや歴史に触れ、地域が持つ魅力や課題を発見し、地域のために自分たちにできることを考える。これらのチーム活動や地域実習を振り返る過程で自己の成長を図っていく。
学生について
受講生は、新潟大学ダブルホーム活動(地域活動を通して人間的成長を目指す学生支援プログラム)に参加を希望する初年次学生(1年生、編入3年生)である。受講者数は各クラス40人であり、1学期に3クラス開講している。
カリキュラムにおける位置づけについて
科目:新潟大学個性化科目
細科目:自由主題
初年次学生対象
全学の学生を受け入れることが可能な科目
大学学習法など,大学での学習を円滑にするためのもの
学習目標
科目の目標
①グループで協力して作業を進めることができる。
②毎回の授業をふりかえり、次回授業の目標を考えることができる。
③地域の課題や魅力を発見し、自分にできることを考えることができる。
④調査の手法、基準を理解し、それらを使うことができる。
⑤調べた内容を大勢の前で報告したり、質問したりすることができる。
⑥ダブルホーム活動の意義を理解し、チームや地域で学ぶ意欲を持つ。
各目標とコースデザインとの関連
・これまで経験したグループワークについて振り返る。グループワークの強みと弱みを理解し、グランドルールの重要性に気付く。
・基本的に全ての授業にグループワークを導入し、自己と他者の強みと弱みを発見し、成長につなげる。
・毎回の授業の5日後までにふりかえりシートを作成して提出する。
・自分の故郷の課題や魅力を発表し合う授業、実習地域の課題や魅力を発見する実習、その後の振り返りで自分にできることを考え、グループ内で共有し、報告会として発表する。
・実習地域の調査として文献調査、フィールドワーク、インタビューのスキルを学び、実際に使う。
・実習地域について調べた内容をポスターツアーや報告会で報告し質問し合う。
・授業と並行して課外活動のダブルホーム活動が開始されている。約1カ月の活動を振り返る授業を設け、悩みや疑問に上級生がアドバイスをしている。
教授法・教材・学習活動
教授法
授業ルーチンは、前回授業の振り返り(受講生の振り返りコメントの紹介を含む)、毎回の授業の目標提示、チームワークのためのグランドルールの共有、レクチャー(10~15分程度)、グループワークである。授業後5日後までに振り返りシート(自己発見、他者発見、授業での学びや質問、次回授業への意気込み)をダブルホームの活動ルームカウンターに設けた箱に提出することを課した。提出をそのようにしたのは、活動ルームに来ることに慣れさせるためである。
ワークは、グループワークについての考え、自分のふるさとの魅力と課題、実習地域への質問事項、実習後の振り返り、等について個人ワークを踏まえた後のグループディスカッションである。
教材
①主要参考図書
「ソーシャルデザイン実践ガイド――地域の課題を解決する7つのステップ」 筧 裕介 英治出版 2013
②配付資料
授業前にレジメとワークシートを配付し、授業後に講義で使用したパワーポイントやレジメデータをLMSで配付した。
③LMS(新潟大学学務情報システム)
授業後の資料、中間レポートや最終レポートの提出に使用
学習活動
①ふりかえりシートの作成
②次回授業のための自分の考えの整理
③実習地域の文献調査
④プレゼンテーション準備
⑤実習でお世話になった方へお礼状作成
⑥中間レポート(実習レポート)
⑦最終レポート
実際の授業
全15回の授業概要は主にガイダンス、上級生によるダブルホーム活動の紹介と懇談、地域実習の準備、地域実習(2回分)、地域実習の振り返り、報告会、ダブルホーム活動の振り返りと上級生によるアドバイス、授業全体の振り返りである。学生たちは、授業と並行して5月末から正課外のダブルホーム活動に参加している。
本授業の中心となる地域実習は、ダブルホーム活動地域4か所でのフィールドワークであり、地域観察、地域住民との懇談、発表会を1日の日程で実施した。実習地域はいずれも少子高齢化が進み後継者不足が課題となっている。事前準備として故郷の再認識、農村地域の課題と可能性の理解、実習地域の文献調査・質問検討会を行った。実習後は、発見した課題・魅力および自分たちにできることの検討、報告会準備、実習報告会を実施した。
1 総合ガイダンス-ダブルホーム活動と自己成長-
2 ダブルホーム活動の心構え
3 ダブルホームを理解するワークショップ1
4 ダブルホームを理解するワークショップ2
5 身近な地域の再認識
6 地域実習の準備①過疎地の理解、実習計画と実習地域の文献調査
7 地域実習の準備②ヒアリング調査項目の決定
8 地域実習①現地に出向いて、地域活動を行う。
9 地域実習②現地に出向いて、地域活動を行う。
10 地域実習③現地に出向いて、地域活動を行う。
11 地域実習のふりかえりと報告会準備
12 報告会準備(プレゼンテーションの練習)
13 地域実習報告会
14 ダブルホーム活動のふりかえりと目標設定
15 全体総括:学習のふりかえりとまとめ
学生の学び
評価ツール
評価は、①授業、グループ活動、ダブルホーム活動への参加と貢献(30%)、②授業後のふりかえりシートの記録と提出(30%)、③中間および最終レポート(40%)であった。①の「参加と貢献」は授業と課外活動ミーティングへの出席点、②はふりかえりシートの提出状況、③のレポートはルーブリックによる評価である。
学生の学習成果の事例(最終レポートの分析)
最終レポート(119名が提出)に記述された成長点や学びが深められた点を抽出し、分類した。
数 | ||
チームによる学び (88名) |
他者意見受容の大切さ | 50 |
つながり・かかわり | 17 | |
協力・助け合い | 10 | |
役割分担と責任 | 7 | |
仲間や先輩の姿勢に学ぶ | 10 | |
積極的参加の大切さ | 4 | |
話しやすい場づくりの大切さ | 13 | |
受容されている安心感・喜び | 13 | |
コミュニケーションに関する学び (82名) |
初対面の人に話しかける力 | 18 |
人と話す力 | 23 | |
自分の意見を言う | 28 | |
聴く力 | 14 | |
プレゼンテーション | 16 | |
地域に関する学び (73名) |
実際に見て話すことの大切さ | 17 |
考えていたこととの違いによる驚き | 16 | |
地域に対する思いや考えの深まり | 18 | |
地域の価値や思いを大切にしていく | 17 | |
地域貢献したい | 6 | |
故郷への思いの深まり | 6 | |
プロセスによる学び (25名) |
振り返りをいかす | 13 |
目標を意識 | 6 | |
計画や準備の重要性 | 5 | |
自己発見や再認識 | 11 | |
他者発見 | 3 |
・チームによる学び、コミュニケーションに関する学び、地域に関する学びについて記述する学生が多く認められた。
・チームによる学びの中で、他者の意見を受容することに関する記述が最も多く、他者の意見を受容することで「自分の視野や価値を広げる」「考えや学びを深める」「アイデアや意見を創出」「楽しさの創出」が可能となっている様子が窺えた。
参考調査:社会人基礎力調査
4月の初回授業と7月の最終授業で実施した(※7月調査は、この授業の成果としての調査ではない)。初回授業と最終授業に実施した社会人基礎力調査の全員の平均点を比較するとアクション3/3項目、シンキング2/3項目、チームワーク2/6項目に上昇が認められた。
第3回授業:各ホームの紹介と先輩との懇談の様子
第6回授業:ポスターツアーで実習地域の文献調査結果や質問項目を他のグループと共有
コースに対する振り返り
今年度の授業課題に対して、チームワークの向上や学習の深化という点においては、話し合いのための場づくりの効果や他者の意見を受け入れてお互いの考えを共有するグループワークで学習が深まったという声が多かったことから、ある程度は改善できたと考えられる。正課外のダブルホーム活動につなげるための地域活動への関心や姿勢の在り方についても多くの積極的な意見が出された。
一方で中間レポートによる形成的評価に時間がかかりフィードバックが遅れたことから学生一人一人の学びへの寄り添いが十分に行えなかった反省がある。授業目標を明確にし、それに対応した評価指標(ルーブリック)の質向上を目指し、自己評価・相互評価を導入していきたい。
教員の授業改善の取り組みに対する学習成果を示すエビデンスの収集についても良く検討する必要がある。振り返りシートやレポートの記述内容からアンケート項目を作成していく予定である。
他大学では既に当該授業を履修した学生アシスタント(SA)によるピア・サポートが受講生およびSA の資質向上に有効であることが多く報告されている。上級生の部分的参加がある初年次学生対象の本授業においてもSA 効果は大いに期待できるため導入の検討を進めている。
参考文献・資料
参考文献と資料
・京都大学高等教育研究開発推進センター(2015)「ディープ・アクティブラーニング」勁草書房
・初年次教育学会(2013)「初年次教育の現状と未来」世界思想社
・筧 裕介(2013)「ソーシャルデザイン実践ガイド――地域の課題を解決する7つのステップ」英治出版
・日本教育工学会(2015)大学教員のためのFD研修会ワークブック
ダブルホームに関する文献
・櫻井典子・他(2015)「地域活動を介した学びのコミュニティにおける地域との関係構築に関する一考察」日本教育工学会第31回全国大会講演論文集、p.935-936
・櫻井典子(2015)「新潟大学ダブルホーム活動にみるコミュニティ維持に学生の地域活動が与える影響 持続的住環境形成に資する地域と大学の協働活動の研究 その1」日本建築学会2015年度大会学術講演梗概集、建築計画Ⅰ、p.1319-1322
・櫻井典子・他(2015)「正課学習と正課外活動を組み合わせた PBLの成果と課題の検証」大学教育学会第37回大会発表要旨集録、p.158-159
・櫻井典子・他(2014)「地域の教育力を活用した学生支援事業の成果の検証-新潟大学ダブルホーム制を事例として-」大学教育学会誌36(1)、p.143-151.