コースポートフォリオ

社会人教育用映像教材を用いたアクティブ・ラーニング型授業の試みと課題

‐ビジネスファシリテーションスキルの実践演習を中心に‐

齊藤 弘通・産業能率大学 経営学部 現代ビジネス学科

[概要]

 産業能率大学では、企業から提示されたビジネス課題の解決やケーススタディ、ロールプレイングなどを通して、経営の知識やリーダーシップ、問題解決手法、ビジネスコミュニケーションスキルなどを学習する「アクティブ・ラーニング型」の授業が数多く開講されている。また、同一法人に産業能率大学総合研究所という社会人教育機関があり、多くの企業のマネジメント研修を手がけているため、企業研修用の教材(ケース教材、映像教材等)も多数開発されており、上記のアクティブ・ラーニング型の授業の一部では、この社会人教育用の教材が学生教育に活用されている。

 筆者が担当する「ビジネスコミュニケーションスキル」(経営学部3年次・心理・コミュニケーションユニット所属学生対象)でも、社会人教育用の教材を活用しながら、実践的な授業を試行している。しかし、これらの教材は社会人を対象として開発されたものであり、教材内で使われている用語やシチュエーションなどが学生にとって身近なものでないため、授業内容に対する学生の理解を促進する上で改善すべき余地が多々ある。

 そこで、本スナップショットでは、上記の授業(「ビジネスコミュニケーションスキル」)において、筆者が社会人教育用の映像教材を活用して行った授業(主にビジネスファシリテーションスキルの実践演習について)の報告を行うとともに、そこでの課題を踏まえ検討した課題解決策を紹介する。

1.対象とする科目の概要

■対象とする科目名

●「ビジネスコミュニケーションスキル」

■受講対象者

●経営学部現代ビジネス学科3年次生(心理・コミュニケーションユニット所属)

■学生が持っている前提知識

●前提となる履修科目は特に設定されていない。

●但し、履修者は全員、心理・コミュニケーションユニットの必修科目である「組織と集団の心理学」(筆者担当)を同時に履修しており、その中で「集団思考」「グループダイナミクス」などの理論、概念を学んでいる。

■2015年度授業履修者数

●63名(4年次の再履修者を含む)

■科目の内容

●本科目では様々なビジネスコミュニケーションスキルのうち、以下3つのスキルを演習中心に学習する。

①ロジカルコミュニケーションスキル(ロジカルリーディング、ロジカルライティング、ロジカルリスニング、ロジカルアサーション)

②ファシリテーションスキル(要約フィードバック法、言い換え法、議論のかみ合わせ、ファシリテーション・グラフィック)

③相手のソーシャルスタイルを踏まえたコミュニケーション

■本科目の位置づけ

●産業能率大学経営学部現代ビジネス学科では、3年次より、学生が所属するコースとは別に、実践と理論を組み合わせて学ぶ「ユニット」と呼ばれるカリキュラムを履修する。

●「ユニット」は全部で4つあり、本科目はその中の「心理・コミュニケーションユニット」の必修科目として位置づけられている。

 

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2.学習目標

■本科目の学習目標 

●シラバスに記載された本科目の学習目標は以下の3点である。

①ビジネス場面で活用されることの多い「ロジカルコミュニケーションスキル」「ファシリテーションスキル」「相手のソーシャルスタイルを踏まえたコミュニケーション」を理解し、説明することができる

②学習したスキルを今後の自らの実生活(就職活動を含む)や他者との様々な協働場面において実践することができる

チームによるディスカッションに積極的に参加することができる

■学習目標ルーブリック

●また、上記の目標をスキルごとに具体的にブレークダウンした「学習目標ルーブリック」を作成した。

*学習目標のルーブリック.pdf

3.授業で扱う具体的な学習項目

●本授業で取り扱う具体的な学習項目は以下のとおりである。 

 

■ロジカルコミュニケーションスキル

●「ロジックツリー」「MECE」に関する知識

●「ロジックツリー」を用いて情報をMECEに分類する方法

 

■ファシリテーションスキル

●会議等の場面におけるファシリテーターの役割や機能

●集団的意思決定の問題点(集団分極化、同調、社会的手抜き等)についての知識

●ファシリテーションの基本スキル

(要約フィードバック法/言い換え法/話の視点・視野を踏まえた議論のかみ合わせ法/ファシリテーショングラフィック法)

 

■ソーシャルスタイル

●ソーシャルスタイル理論

●各ソーシャルスタイルのコミュニケーション上の特徴

●相手の表情やしぐさや会話の内容等から相手のソーシャルスタイルを判定する方法

●自分のソーシャルスタイルとは異なるソーシャルスタイルの相手に合わせて柔軟にコミュニケーションをとる方法

●会議などの場面において、メンバーのソーシャルスタイルを踏まえ、効果的にファシリテーションを行う方法

 

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4.教授法

●「①講義」「②グループワーク」「③授業外学習課題」の3点から授業を構成した。

●「①講義」では、各回に学習する内容についての概要を伝え、その後「②グループワーク」を行い、必要に応じて各回の学習内容に即した「③授業外学習課題」を提示した。

●本科目で学ぶ「ビジネスコミュニケーションスキル」は、知識を身に付けるだけではなく、実際に実践できるようになることが重要であるため、「②グループワーク」では、多くの企業研修で用いられているケーススタディ教材や映像教材(産業能率大学総合研究所による開発)を活用した。

5.活用した教材

■テキスト

●市販図書等は使用せず、その代わりに、毎回の学習内容に関する資料(Powerpointで作成したレジュメ)を配布した。

■LMSの利用

・授業で学習する知識についての小テストをLMS(manaba)上で行った。

■映像教材等

●産業能率大学総合研究所が社会人教育用に開発した映像教材(ファシリテーションスキル演習用)や紙媒体のケース教材を活用した。 

■活用した映像教材の詳細

●活用した映像教材は、ファシリテーションスキル(要約フィードバック法、言い換え法、議論のかみ合わせ法、ファシリテーション・グラフィック法)の演習を行うためのものであり、産業能率大学の社会人教育部門(総合研究所)が2009年に開発した。

●この映像教材は、架空の会社の営業職場における複数の会議場面を題材としたものであり(映像は全10シーン/長さは各23分程度)、メンバー同士の認識のずれや見解の相違から議論が混乱し、かみ合っていない会議の様子が描かれている。

●学生は、議論がかみ合っていない会議の映像を視聴したあと、「もし自分がこの会議のファシリテーターだったら、かみ合っていない議論をどのように整理するか」を考え、授業で学習したファシリテーションスキルに関する知識をもとに、ファシリテーターとして会議メンバーに投げかけるフレーズを検討する演習に個人・グループで取り組む。

*社会人教育用映像教材イメージ①.jpg

*社会人教育用映像教材イメージ②.jpg

*社会人教育用映像教材イメージ③.jpg

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6.実際の授業(全14回/各回100分の概要)

■第1回:オリエンテーション

●チーム編成を行い、グループ内自己紹介を行った。

●編成したチームで予定していたチームビルディング演習(マシュマロチャレンジ)を行い、演習後にTEDの映像を視聴し、 チーム活動の生産性や創造性を高めるためのポイントを解説した。

●演習後、本科目で扱う内容、評価方法等についてガイダンスを行った。

■第2回:ロジカルコミュニケーションスキル(全体像)

●レジュメに沿い、ロジカルコミュニケーションスキルの全体像や論理的であることの条件、ロジックツリーの構造、種類、MECEについて講義した。

●社会人教育で活用しているケース教材を用いて、ロジックツリー作成演習を3問実施した。

■第3回:ロジカルコミュニケーションスキル演習①

●「わかりにくい文章にはどのような特徴があるか?」についてグループで話し合ってもらい、その内容を踏まえ、わかりやすい文章に求められるポイントを解説した。

●上記の解説を踏まえ、「わかりにくい文章」を論理的でわかりやすい(筋の通った)文章にするにはどうしたらよいか、グループで演習問題に取り組んだ。

■第4回:ロジカルコミュニケーションスキル演習②

●論理的な文書表現の技術について解説し、ある文書をロジックツリーで構造化する小演習を実施した。

●レイアウトで視覚的に構造化する方法について解説し、ケーススタディ(「研修の参加申請」)に取り組んだ。 

■第5回:ロジカルコミュニケーションスキル演習③

●先週の授業外学習課題について、学生が作成したものの一部を紹介し、回答例の解説を行った。

●ロジカルライティングの理解を促進するため、ロジカルライティングに関する別のケーススタディ(「テクニカル社の説明会」)を行った。 

■第6回:ロジカルコミュニケーションスキル演習④

● 解説型ロジックツリーの構造と、結論ありきの場合の説得ストーリーの作成法について事例を用いて解説した。

●社会人教育で活用されているケース教材(「社員旅行はどこにする?」)を用いて、解説型ロジックツリーに基づき結論ありきの場合の説得ストーリーの作成を練習した。

■第7回:ビジネスファシリテーションスキル(全体像)

●NASAゲームを用いて、チームで合意形成演習(コンセンサスゲーム)に取り組んだ

●NASAゲームの結果を踏まえ、集団的意思決定の問題点について解説した。

●集団的意思決定の問題点を是正する役割としてファシリテーターの存在があることを解説した。

■第8回:ビジネスファシリテーションスキル演習①

●ビジネスファシリテーションスキルの1つである「要約フィードバック法」について解説し、映像教材を用いて、個人およびチームで「要約フィードバック法」の演習(2問)に取り組んだ。

■第9回:ビジネスファシリテーションスキル演習②

●ビジネスファシリテーションスキルの1つである「言い換え法」「議論のかみ合わせ法」について解説し、映像教材を用いて、個人およびチームで演習(2問)に取り組んだ。

■第10回:ビジネスファシリテーションスキル演習③

●ビジネスファシリテーションスキルの1つである「ファシリテーション・グラフィック法」について解説し、映像教材を用いて、個人およびチームで演習(1問)に取り組んだ。

■第11回:ビジネスファシリテーションスキル演習④

●前週に引き続き、映像教材を用いて、「ファシリテーション・グラフィック法」の練習問題(2問)を実施した。

■第12回:ソーシャルスタイルの演習①

●ソーシャルスタイル理論や4つのソーシャルスタイルの特徴について、事例や映像教材を用いて解説した。

●映像教材を用いて、他者のソーシャルスタイルを判定するグループ演習を行った。 

■第13回:ソーシャルスタイルの演習②

●各ソーシャルスタイルの特徴についての理解を促すため、「行動特性」「時間管理」「意思決定」の各側面において、各ソーシャルスタイルでどのような違いがあるかを、演習を通して学習した。

●各ソーシャルスタイルの特徴の違いを踏まえ、ソーシャルスタイルごとの動機付けの仕方やアプローチ法について学習した。

●事前に実施していた自分自身のソーシャルスタイル診断の結果を回答した学生にフィードバックした。 

■第14回:本授業のまとめ

●これまで学習してきたことの総復習を行った。

 

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7.学習目標の達成状況

■学習目標の達成状況の確認方法

●本授業で扱う「ビジネスコミュニケーションスキル」のうち、「ビジネスファシリテーションスキル」に関する学習目標の達成状況を確認するため、①「グループワークのアウトプット(ホワイトボードの記述内容)」の質的評価②受講者アンケート(自由記述式)の記述内容の分類③ルーブリック方式で設定した学習目標に対する学生の自己評価結果の確認を行った。

●なお本授業では、「ビジネスファシリテーションスキル」の演習として、「要約フィードバック法」「言い換え法」「議論のかみ合わせ法」「ファシリテーション・グラフィック法」について、映像教材を用いた演習をそれぞれ数問ずつ行っている(映像教材の概要および演習の進め方については「5.活用した教材」を参照)。

■学習目標の達成状況の確認①:グループワークのアウトプットに対する質的評価

●グループワークによって作成された解答が演習のねらいに即していたかどうかを確認したところ、特に「要約フィードバック法(会議参加者の発言が長かったり要領を得なかったりする際に、ファシリテーターが当該発言内容の要点をまとめて伝えるテクニック)」や「ファシリテーション・グラフィック法(各種フレームワークを用いて議論を整理するテクニック)」の知識を用いて解答を導く演習については、映像教材の開発者が妥当と考える解答に近いものが作成されるなど、概ね演習のねらいに即していたものと考えられる。

[学生が作成したホワイトボードの例①]

●議論が錯綜している会議場面の映像を視聴し、その内容をいくつかの論点に分類し、議論されている内容のメリット/デメリットを整理する演習(ファシリテーション・グラフィック法)のアウトプット例

*グループワークアウトプット例①.jpg

 

 

[学生が作成したホワイトボードの例②]

●議論が錯綜している会議場面の映像を視聴し、その内容を整理するうえで相応しいと考えられるフレームワークで整理する演習(ファシリテーショング・ラフィック法)のアウトプット例

*グループワークアウトプット例②.jpg 

*グループワークアウトプット例③.jpg

●一方、「言い換え法」(抽象的な議論の内容を事例や喩えを用いて説明する方法)や「議論のかみ合わせ法」(議論の内容を抽象的な視点で整理し、論点を明確にする方法)の知識を用いて解答を導く演習については、学生が映像の中に出てくるビジネス用語(例:ソリューションセールスなど)を正確に理解していないために、適切な事例で言い換えることができなかったり、議論の内容を抽象的な視点で整理できず、単に発言を列挙しただけにとどまっているものなど、改善の余地がある解答が散見された。

[学生が作成したホワイトボードの例①]

●「ソリューション営業」に関する議論をしている会議場面の映像を視聴し、そこに登場する議論についていけない会議メンバーをフォローするために、ファシリテーターとしてどのような投げかけをすべきかを考えさせる演習のアウトプット例

 

*グループワークアウトプット例④.jpg

[学生が作成したホワイトボードの例②]

●「営業マンの教育方法」をめぐって論点がかみ合っていない会議場面を視聴し、この議論を整理するために、ファシリテーターとしてどのような投げかけをすべきかを考えさせる演習のアウトプット例

 

*グループワークアウトプット例⑤.jpg

 

*グループワークアウトプット例⑥.jpg

 

■学習目標の達成状況の確認②:受講者アンケート(自由記述式)の分類

●学期末に行った自由記述式の受講者アンケートでは、社会人教育で活用している映像教材を用いた演習内容について、大きく以下2つの意見が比較的多く確認された。

 

[主な意見①ビジネスシチュエーションの映像教材に対する改善要望]

  • 会議での映像が多かったのですが、もう少し大学生に身近な場面での映像ならより理解度が深まるのではないかと思いました
  • 事例ビデオをもう少し簡単な内容にものにする
  • もう少し事例をわかりやすいものにすれば良いと思いました
  • 例が企業でのものばかりだったので、日常会話バージョンがあっても良かったかなと思います
  • 会社での話でなく、学生同士の身近な話からはじめたほうが理解しやすい
  • 映像で見るため、イメージはしやすいが、解答例を見ると、現実は本当にこんなにうまくいくの?と疑ってしまった

[主な意見②実際にファシリテーター役を体験したかったという意見]

  • グループワークで、授業で学んだ役割を実際に演じてみたらわかりやすかったと思う
  • 実際にファシリテーターをさせる機会があってもよいと思う
  • グループで一人ファシリテーター役を決めて話し合いをするといったこともやってみたかったです
  • 一人ひとりがファシリテーターを務め、多少なりとも経験することが必要だと思います
  • ファシリテーションの映像を見たが、個人個人が実際にファシリテーター役をすることはなかったので、そこに改善点があるのではないだろうか
  • グループごとに前に出てファシリテーションスキルの実践を発表してもらう形をとれば、先生も生徒がどれくらい理解したか把握することができるし、生徒側もやり方をきちんと教わることができるのでよいのではないかと思う
  • 一人ひとりがファシリテーターを演じる機会があればなと思いました
  • 学生に身近な議題で会議をさせ、ファシリテーションスキルを使う

 

学習目標の達成状況の確認③:学習目標に対する学生の自己評価結果

●あらかじめルーブリック方式で設定していた本科目の学習目標(「2.学習目標」の欄のリンクを参照)がどの程度到達できたかを確認するため、最終授業で学生に対し自己評価アンケートを実施した。

●学生による自己評価の結果、学生の自己評価はレベル2段階(ファシリテーターの役割やファシリテーションの基本スキルは理解できた:約53%)とレベル3段階(ファシリテーションの応用スキルが理解でき、議論をファシリテーションするイメージがつかめた:約36%)に集中し、本科目が最終到達目標として掲げたレベル4段階(ファシリテーションスキルを実生活で応用・実践できる:約9%)の学習効果を認識している学生は少数にとどまる結果となった。

●学生は、各種演習を通して議論をファシリテートするイメージはつかめたものの、それを実際に活用できるレベルには至らなかったと認識する結果となった。

 

 

*学生の自己評価結果.pdf

 

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8.実践結果を踏まえた課題

■課題①社会人教育用映像教材のアレンジ

●「7.学習目標の達成状況」の欄に記述のとおり、学生のアンケート(自由記述)結果からは、社会人教育用の映像教材を用いたビジネスファシリテーション演習において、題材とした映像の理解が十分できなかったとの意見が比較的多く確認された。このため、一部の演習では、グループワークのアウトプットの質に改善の余地があるものも散見された。

●また学生は映像を数回見ただけでは、そこに描かれた状況を十分理解できなかったため、演習に入る前の状況説明に想定より多くの時間がかかってしまい、結果として1回の授業でこなせる演習の量が少なくなってしまうという問題も発生した。

●こうしたことから、社会人教育用教材をそのまま学生教育に転用することは状況理解の観点から難しいことが確認され、学生の理解を促す上で、社会人教育用教材に何らかのアレンジを行うことが課題として挙げられる。

■課題②授業の中でファシリテーターとしての役回りを体験できる機会の設定

●「7.学習目標の達成状況」の欄に記述のとおり、学習目標に対する学生の自己評価結果によれば、本科目が最終到達目標として掲げたレベル4段階(ファシリテーションスキルを実生活で応用・実践できる)の学習効果を認識している学生はわずか9%にとどまった。

●また、同じく「7.学習目標の達成状況」の欄に記述のとおり、学生のアンケート(自由記述)結果からは、何らかの会議場面において、実際にファシリテーター役を体験したいとの意見が比較的多く挙げられた。

こうしたことことから、授業の中で実際にファシリテーションスキルを実践させる機会を作ることも課題として挙げられる。

9.課題解決のための施策

●上記の課題解決のため、2つの改善施策を企画した。

■施策①ファシリテーションスキル演習のための新たな映像教材の開発

●前述の課題①の解決に向けて、学生にとって身近な状況でファシリテーションスキルが理解・体験できる演習用映像教材を開発した。

●活用した社会人教育用の映像教材はビジネス場面を題材としていたため学生にとって状況理解がしにくいという問題が生じた。そこで、教材開発に際しては、学生にとって身近な状況を題材にすることを重視し、映像のシナリオを学生に作成させ、その中から映像教材の題材として相応しいと判断されるものを筆者が選択した。

●その結果、大学生活やバイトなどを題材とした学生に身近な状況での映像教材が開発された。

●また、映像の出演者は授業の履修者からボランティアを募り、合計6名の協力者を得た。

[学生が作成した映像シナリオ例]

*映像教材シナリオ例.pdf 

●映像教材は全部で5つ作成した。

●5つの内訳は、「要約フィードバック法」の演習教材が1つ、「ファシリテーショングラフィック法(会議で話し合われている内容を親和図やT字チャートなどのフレームワークで可視化する方法)」の演習教材が2つ、「議論のかみ合わせ法(議論の内容を抽象的な視点で整理し、論点を明確にする方法)」の演習教材が1つ、「言い換え法(抽象的な議論の内容を事例や喩えを用いて説明する方法)」の演習教材が1つである。

[映像教材の画面イメージ]

*学生教育用映像教材イメージ①.png 

*学生教育用映像教材イメージ②.png

■施策②ファシリテーター役を体験するためのショートケース教材の開発

●前述の課題②の解決に向けて、学生にとって身近なテーマで、実際に会議場面でのファシリテーションを体験することができるよう、演習用のショートケース教材を開発した。

●開発したショートケース教材は、①「キャンパス魅力向上委員会の定例会議」、②「ゼミ旅行先検討ミーティング」の2つである。

[ショートケース教材①キャンパス魅力向上委員会の定例会議の概要]

●ショートケース教材「キャンパス魅力向上委員会の定例会議」は、「キャンパスでの学生生活の魅力をより高めるためにどのような問題を解決していけばよいか」をテーマに話し合わせ、優先的に実行すべきアクションプランを検討させるという 内容の教材である。

●このケースではファシリテーター役は、メンバーの意見を引き出しながら、①キャンパス生活で感じる問題点の洗い出し、②問題点の整理、③原因分析、④解決策の立案までの流れをファシリテーションすることが求められる。

●また、ファシリテーション演習の後には、会議のメンバー役の学生が「フィードバックシート」を記入し、ファシリテーター役に対し、ファシリテーションスキルの実践度合いについてフィードバックを行っていく想定である。

*ショートケース教材①.pdf

[ショートケース教材②ゼミ旅行先検討ミーティングの概要]

●ショートケース教材「ゼミ旅行先検討ミーティング」は、「ゼミでの親睦旅行をどこにするか」をテーマとしたもので、3つの旅行プランのメリット・デメリットを比較検討させながら、最終的に1つのプランに絞り込ませるという 内容の教材である。

●このケースではファシリテーター役は、メンバーの意見を引き出しながら、3つのプランを比較するための軸(費用、天候リスク、食事の美味しさなどの任意の判断軸)を設定し、「T字チャート」などのフレームワークを用いながら、最終的に1つのプランに絞込み、メンバーと合意形成することが求められる。

●また、ファシリテーション演習の後には、会議のメンバー役の学生が「フィードバックシート」を記入し、ファシリテーター役に対し、ファシリテーションスキルの実践度合いについてフィードバックを行っていく想定である。

*ショートケース教材②.pdf

10.施策の検証(トライアルの実施)

■開発した映像教材のトライアル

●対象とした科目「ビジネスコミュニケーションスキル」は前期のみの開講であるため、今回開発した映像教材を授業の中で試行することはできなかった。

●そこで、 授業を履修していた学生に協力を仰ぎ、開発した映像教材のトライアルを実施した。

●トライアルに参加した学生は、本科目を履修していた学生2名(映像開発にも協力した学生)と、当該学生が所属するゼミの学生(本科目を履修していない学生)3名の合計5名である。

●トライアルでは、開発した映像教材のいくつかを学生に視聴させ、個人およびグループで、各演習課題について検討してもらった。 

[トライアル風景]

*トライアル風景.jpg 

■トライアルの結果

●トライアルでは全部で4つの演習課題(①要約フィードバック法②言い換え法③ファシリテーション・グラフィック法(フレームワークによる問題点の整理))④議論のかみ合わせ法を行った。その結果、いずれの演習でも筆者が映像教材開発時に想定していた妥当解に近い解答を得ることができた。

●また、トライアルに参加した学生にアンケート(自由記述式)をとったところ、以下のような回答が得られた。

[トライアルに参加した学生からの主な意見(肯定的な意見)]

  • ユニットの授業内のつながりで使うにはなかなか良い負荷の課題だと思います。この授業はグループでの話し合いの結果を先生にフィードバックしてもらえる点が他の授業と比べて魅力的であると思います。私たちが使っていたビジネスシーンを用いた演習も時間があれば応用として使うと、より学びも深まり、ビジネス用語も覚えられるので有効なのではないでしょうか。
  • 最初説明を受けた時、どんなものなのかわかったと思っていたけど、実際に自分が行ってみると、どこが要点・論点なのか迷ったり、言い換えたりするのは難しかった。「言い換え」については、モノによって言葉の意味を分かっていなければできないことだと思った。映像の模範解答を見て、どこが要点として必要になってくるのか気づくことができた。「問題点の整理」については、カテゴリーをいくつか出して分けるときに、この問題点はどちらにも入るからどっちに入れればいいか迷った。軸が2つになっていることに気づかなかった。
  • 「要約フィードバック」については、ただポイントを抽出するのではなく、あくまでビジネスコミュニケーションとして相手にわかりやすく伝えるという目的を認識できた。「論点の整理」については、論点を読み取ってカテゴライズするというファシリテーターの基礎的な技術を学べたという印象を持った。「問題点の整理」については、問題をただ仕分けるのではなく、どう仕分けしてファシリテーターとして議論をどう持っていくかという視点の重要性を認識できた。仕分けの技術にとどまらないところが良かった。
  • 1回目にやったことが2回目に活かされて、最後の4回目まで活かされていたので自分の能力が上がったと感じた。繋がりを感じることができた。毎回先生がコメントをくれたのでわかりやすかった。
  • グループワークした後、フィードバックしてもらい、更にこうすると良いということを教えていただくと身につきやすく良かったです。学生目線の例だったので分かりやすかったです。実践的でやりがいがありました。

●上記の肯定的なコメントに見られるように、それぞれの学生が、演習を通してファシリテーションスキルを実践する上でのポイントについて何らかの気づきを得ており、ファシリテーションスキルを理解するための基礎的な演習用教材として概ね機能することが確認された。加えて、当該演習では、学生のアウトプットやファシリテーションプロセスの巧拙に対するフィードバックを丁寧に行うことが重要であることを改めて確認することができた。

●一方で以下のコメントにあるように、「演習のゴール」(なにをどこまでやれないいのか)が見えないという意見も寄せられた。

[トライアルに参加した学生からの主な意見(否定的な意見)]

  • 「言い換え法」については、ただ言い換えただけという印象を個人的には持った。
  • 時間を短めに設けてスマートに行ってもらい、足りなかった分を説明すると良いと思いました。どこまでやればゴールかわからなかったです。例の通りさせるか、小さい問題を多くさせたほうが良いと思いました。
  • 終わりが見えない。何がゴールなのかが分からない。「良いね。その答えは面白いね」など、プラスの言葉から先生のコメントが始まると学生のやる気にも繋がる。

 

●これは、「ファシリテーション・グラフィック法」の演習課題において求められていることが、①映像で話し合われている議論の内容を可視化することなのか、②議論を可視化するだけではなく、ファシリテーションの方法まで考えることなのか、が学生にわかりにくかったからと推察される。この点は、映像教材を用いてファシリテーションスキル演習を行う上での改善課題としたい。

11.残された課題

●本報告では、筆者が担当する「ビジネスファシリテーションスキル」という科目の中で行う「ファシリテーションスキル演習」において、実際に企業研修で活用されている社会人教育用の映像教材を用いた授業を行った結果と、確認された課題を解決するために行った施策とそのトライアル結果について紹介した。

●結果として、社会人教育用の映像教材を用いて演習を行った場合、学生にはビジネスシーンの文脈が分かりにくいという問題が確認され、その解決策の1つとして、大学生活やバイトなどを題材とした学生に身近な状況での映像教材の開発を新たに行った。

●前述のとおり、教材開発やトライアルに参画した学生の教材に対する評価も概ね肯定的なものであったが、一方で、学生目線に寄りすぎた教材を活用することは、ビジネスにおいてファシリテーションスキルが活用されることの意味合いについて、学生の理解が不十分になる懸念も想定される。ビジネス状況の要素を残しながら、内容を学生にも分かりやすいものにするには、社会人教育で活用されている教材をどの程度アレンジすればよいのかを検討する必要が残されている。

同僚のコメント

●開発した映像教材については本学経営学部長に視聴していただき、「学生の身近な事例を用いてファシリテーションスキルについての理解を深める教材として有用」とのコメントを頂いた。

参考文献・資料

●堀公俊・加藤彰(2006)『ファシリテーション・グラフィック-議論を「見える化」する技法』日本経済新聞社.

●堀公俊・加藤彰(2008)『ワークショップ・デザイン-知をつむぐ対話の場づくり』日本経済新聞社.

●堀公俊・加藤彰(2009)『ロジカル・ディスカッション』日本経済新聞社.

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