初年次科目における起業家精神の養成 

-短大生によるカフェメニュー企画から提供まで- 

清泉女学院短期大学 国際コミュニケーション科 長田尚子(第1期MOSTフェロー)

概要:長野県長野市に位置する清泉女学院短期大学国際コミュニケーション科では、地域の事業所で自律的にキャリアを形成していける女性の育成をめざし、様々な産学連携授業の開発と継続的な授業改善を行っている。このスナップショットでは、ビジネスコースの専門科目である「起業と経営学入門」で行っているプロジェクト活動のデザインと評価についてグループ編成を中心に検討する。授業では、経営学の基礎的な講義に引き続き、地域のフィールドワークに基づいて学生がカフェメニューをビジネスプランとして企画立案し、最終的には期間限定で地域のカフェで提供する、という活動を行っている。

コースの基本情報

ビジネスコースの専門科目「起業と経営学入門」のプロジェクト活動のデザインと評価について検討する。本学科の卒業生の多くは事務系職種として就職するが、企業の一員として地元で働く場合でも、経営者の視点でものを考え、主体的に行動することができるようになることが重要であると考えている。そこで、地域社会の問題に目を向け、地域を活性化するためのビジネスプランを考え、その一部をビジネスとして形にしてみるという活動を行なっている。活動を通じて、仕事にオーナー意識を持って取り組む素晴らしさを知ることにより、卒業後も仕事の捉え方を工夫し、キャリアの幅を拡げてくれることを期待している。

本コースは、2009年度に開講し、ここまで以下のような活動を実施してきている。

2009年度:長野駅前の女性向けカフェ企画

2010年度:長野駅前の女性向けカフェ企画

2011年度:地域の特産を使ったスープカレー開発

2012年度:長野市内のカフェでの3メニュー提供

2013年度:長野市内のカフェでの4メニューの提供

2014年度:長野市内のカフェでの2メニューの提供

学習目標

経営学の基礎知識を深め、ビジネスコースで学んできた内容を応用し発展させることを目指す。授業全体で履修者が経営者の立場で行動することを重視し、オーナー意識を持って主体的に活動することを促進する。ビジネス系の基礎知識を総合的に応用するために、以下の5項目、1)地域の問題に目をつける問題発見力 2)起業プランとしてまとめる思考力 3)プランを売り出すために工夫する力 4)プランを実現するためのコミュニケーション力 5)プランを実施するための行動力、を習得することを学習成果の指標とする。

これらを達成するために、2011年以降のコースでは授業の中に大きく3つの柱を設定した。活動ボリューム的には2番目が大きいが、それを定着させるために最後に個人による起業プランの立案を発表を位置づけている。そのために政策金融公庫で用いている創業計画書に各自のプランを記入するという形をとっている。

    1. 経営学の基礎知識の講義
    2. 起業プランの立案と実施(グループ)
    3. 起業プランの立案と発表(個人)

評価方法・基準は、分担作業の進捗と完成度(40%)、授業への取り組み(40%)、起業プラン発表会(20%)である。


教授法・教材・学習活動

活動テーマ:「長野駅周辺にカフェを開業するとしたら」

講義部分:授業の前半はテキストを用いて、マーケティング、生産管理、ロジスティクス、組織・人事管理、経営戦略等、経営学の基礎を学ぶ。並行して、大学近郊のフィールドワークを行い、地域を活性化するためにどのようなカフェがあればよいか、ということを調査する。テキストは参考文献・資料に示した笠原(2004)。

グループ活動:調査結果をもとに、実際にカフェを開業するためのビジネスプランを考え、最後に検討したメニューを地元のカフェの協力を得て期間限定で実現する。カフェメニューの試作から提供までの一連の作業は報告書としてまとめ、次年度の履修者が活動を継続するための参考資料として受け継いていく。報告書のイメージ写真は右のボックスに掲載している。

個人活動:最後に各自1つカフェのビジネスプランを検討し創業計画書を記入しポスター発表する。


グループ活動について:カフェメニューを検討して実現するというグループ活動部分については2011年度からプロジェクト活動として実施している。2011年度は全体で1つのビジネスプランを考え、それを実現するためのステップを企業がもつ組織機能を考えながら全員で体験していくという形をとった。具体的には地元の特産である野菜を使ったカフェのプランを考え、その1つのメニューとしてスープカレーのメニューを企画し、提供した。

それに対し、2012年度以降は学生の自律的な活動を促進するために、Engle & Conant(2002)で紹介されているプロジェクト活動構成にヒントを得たグループ構成をとった。全体を6-8名ずつのグループにわけ1つの会社とみなして各社でビジネスプランを考え、その実現のために必要な組織機能を学生が考えグループ内で分担し運営した。

下図が各年度のグループ構成の概要である。2012年度以降は各グループの中が会社運営となり、学生各自が役職を持ち、それを全うしながらグループを運営していく形が定着している。



実際の授業

年6月から10月までの期間に以下のとおりの単元構成で活動を進めた。

      1. オリエンテーション
      2. 起業プランとマーケティング
      3. カフェのSTPと4P
      4. 長野市内のカフェ事情の調査
      5. 長野市内のカフェ事情の調査
      6. コンセプト作りと中間報告
      7. 生産管理、ロジスティクス
      8. メニュー検討
      9. メニュー試作と学内好感度調査
      10. 組織・人事管理と店舗運営
      11. コンセプト、メニューのプレゼン
      12. 開業準備(ちらし作成、試作 等)
      13. 開業準備(宣伝、仕入れ 等)
      14. カフェの試行的な開店
      15. カフェビジネスの振り返り
      16. 起業プラン発表会


清泉カフェプロジェクトのブログ
カフェの企画から運営までを学生と教員が記録し発信しているブログで、2012年から開設している。

学生の学び

グループの構成と学生の自律性

短大生にとってカフェメニューの企画から提供までを約半年で実施するという活動は難易度が高い。2011年度以降実際のメニューを提供するようになり、2011年度は確実性を期すためにクラス全体で1つのメニューを検討し、全体を分担して運営していた。2012年度以降は、学生のグループそれぞれの自律性を尊重するためにグループごとに会社運営として、その中に必要となる機能を会社内の各部署の担当というイメージで役割分担してもらった。各年度カフェ自体は成功裏に運営でき、一定の利益も確保できている。

振り返りシートへの着目

2012年度以降のグループ構成が効果的に働いた場合、各グループの目標を達成するために、学生それぞれが自分の担当分野に責任を持ち、作業を進めることが期待される。そこで、全体の目標を両年度の授業デザインを比較するために、授業で用いている振り返りシートにおける学生の記述内容を用いた。分析に際しては、記述された文章が述べている内容を手がかりに、質的にカテゴリーを起こし(佐藤,2008)、年度毎のの学生の状況を比較検討する方法をとった。

2011年度の記述内容では、カフェメニューを企画して提供するという活動自体の大変さを振り返るもの、大変だったがよい経験になったという感想的なコメントが多かった。一方2012年度以降では、ビジネスプランの実現という観点から、カフェメニューを経営的に実現していくための実践上の観点からの振り返りが多いことが確認できた。

なお、本実践のより詳細な検討は長田・森田(2014)を参考にされたい。

学生の声(2014年度)

グループ間では同じ役割(例:社長同志、経理同志)の学生が自然に情報交換し助け合う様子が観察された。参加学生の振り返りシートの抜粋を以下に示す。

4つのグループでやることで、他のグループが頑張っていると、自分たちもしっかりやらなきゃという気持ちが生まれた。

グループ内での協力という意味では、LINEグループでの呼びかけ合い意見の出しあいができ、誰か1人が仕事を背負うことがなくてよかった。

他のチームがどんな工夫をしているか、どのくらい計画が進んでいるかを、おたがいに知ることができたので、それを自分たちのチームに生かすことができました。

活動の様子

 カフェマスターとの打ち合わせ、試作、当日運営までの様子。

 

学生が作成した報告書の一部。内容の選定と執筆内容の責任は学生に一任し、冊子に印刷して次年度に引き継ぐ。

コースに対する振り返り

このコースの最終目的である起業家精神の養成が図られたかどうか、という点については現段階で収集できてるデータだけから判断することは難しいが、前述のとおり学生の振り返りコメントの内容的な割合が単なる感想からより深い考察へと移行している点から考えると、ある程度は最終目的に向けた授業展開となっていたものと考えている。たとえば、カフェ開業準備が本格化するにつれ、宣伝チラシも学生独自で制作し配布していく必要が生じる。メンバーが持っている経験や知識を総動員してあるグループがチラシを制作すると、別のグループもその様子を見つつ、同様の挑戦を行っていく。1つの会社としてグループで立てた目標を自らのこととして考え、それに向けて自律的に活動していくという流れがグループ相互に切磋琢磨しあいながら進んでいく。

2014年度のチラシのサンプル

 

このコースの副次的効果として特筆すべき点は、最後の創業計画書の記入を通じた気づきである。この用紙は実際に創業を目指す人が使う真正なものであり、学生も記入例に従って自らのカフェプランを具体化していく。その中で、資金の計画、売上の計画を検討し、人員計画も立てる。当初多くの学生が数名程度の人員採用を検討するが、実際に月々の利益を計算してみると、赤字になることがわかり、最終的には人員の採用予定を減らすことを検討することになる。このプロセスを自らの就職活動に置き換えて考え、企業で1人の社員を雇い、給与を支払うことがいかに大変であるかを理解することとなる。

学生による授業評価アンケートにおける授業全体の満足度の数値を五段階評価(1~5)で集計した点数は、2011年度4.65、2012年度4.64、2013年度4.73 となっており、学科の平均値を越える推移を示している。

同僚のコメント

カフェメニュー提供でお世話になっている長野市のカフェシンカの店長の渡邉憲也様より以下のコメントをいただいた。

「学生たちが複数のグループに分かれて、それぞれ会社運営を行い、会社ごとに異なるメニューを検討し提供してくれることは自分にとっても比較検討の機会となり、非常に助かる。複数メニューの売れ行きを客観的に観察でき、当店の客層でもある女性の好みを知ることもできる」

メニュー事例(参考写真)

以下は今まで実際にカフェシンカのメニューとして提供してきたもの中から、 参考事例として紹介する。上段はおにぎり専門店とのコラボによる和風おにぎり喫茶のメニュー、下段は清泉女学院の修道会のシスターから学生が直接レシピを教えていただき、地元のパン店のパンをセットにしたスープセットメニューである。地元のパンは学生が市内の各地域での「町のパン屋さん」を探してご協力いただいている。

参考文献・資料

信濃毎日新聞の記事(2012)

Engle, R. A. & Conant, F. C. (2002). Guiding principles for fostering productive disciplinary engagement: Explaining an emergent argument in a community of learners classroom. Cognition and Instruction, 20(4), 399-483.

笠原英一 (2004) 『経営学のことが面白いほどわかる本―日本一やさしいビジネスパーソン・学生のための入門書』中経出版.(この本をテキストとして利用。現在は改定版が出版されている)


長田尚子・森田泰暢 (2014)「初年次教育のため産学連携プロジェクト活動モデル提案」『ヒューマンインタフェース学会論文誌』 16(1-4), 261-276.


佐藤郁哉 (2008)『質的データ分析法―原理・方法・実践』新曜社.

謝辞

この実践研究の一部は、JSPS科研費 24530981 の助成を受けたものです。

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