口頭アウトプット演習の試み
[ 渡邊 美智留 ・ 横浜薬科大学 ]
概要
『口頭の質問に十分な回答ができなかった』という薬学生や指導薬剤師からのコメントが多い。これは、臨床現場では口頭に質問や説明など速さと簡潔な表現力が求められる機会が非常に多いのにもかかわらず、大学教育ではComputer-based Testやマークシートで回答するアウトプットが多いことが原因と考えた。そこで、臨床現場での会話をモチーフとした“口頭アウトプット演習”を、多人数クラスの講義の一部に組み込んだ。
◆授業を計画した動機◆
薬学部の学生は、5年次に、保険薬局と病院薬局の臨床現場で、参加・体験型を基本とする各11週間の実務実習の履修が必修となっている。大学では、臨床実務経験のある教員が関わり、講義、演習、実習などの臨床準備教育を実施している。しかしながら『臨床現場における指導薬剤師の質問に十分な回答ができない』という声が、学生、指導薬剤師の双方から多く聞かれ問題点となっている。
- なぜなのだろうか?
臨床現場では、医師や看護師、患者、そして指導薬剤師からの質問が多い。
大学教育の状況を比較すると
この違いが学生の戸惑いの一因ではないかと考えた。
◆学習目標
- 病院や薬局の臨床実習における学習方法やコミュニケーションの肝所を事前に習得する
- 将来、薬剤師となったときに、薬学知識を円滑に口頭アウトプットして、医療チームの中で活躍できる
◆授業の評価◆
調査1)M大学薬学部4年生135名を対象。
演習の意義、質問内容の高等度等を問う5段階アンケートと感想文を提出させた(無記名)。
調査2)横浜薬科大学4年生262人(留年生除外)を対象。
口頭試問に対する好感度、就職経験の有無、多人数でおこなうモノへの好感度等を問うアンケートを行った(無記名)。
結果
◆授業の意義
➡ 有意義な授業といえる
◆各種アウトプット方法の好感度
➡ 「口頭の質問は難しい」と感じる学生が多い
◆口頭の質問を好まない学生に関連する因子
➡ 就職経験のある学生は口頭の質問に対する抵抗感が少ない
➡ 多人数でおこなうモノを好む学生の方が、口頭の質問に対する抵抗感が大きい傾向
◆口頭の質問について--感想文の代表例--
- 口頭説明するのは、思っている以上に難しかった
- 口頭で聞かれると、文字で見て考えるより難しくて、なかなか出てこなかった
- 実際に聞かれてみると、焦って答えることが出来なかった
- 口頭で質問されると、頭の中で整理して答えなければいけないので、筆記で答えるより難しかった
- 口頭で質問されるのは、ペーパーテストと大違いで、わかっているようなことでも全然出てこなかった
- マークシートや選択肢に慣れているため、練習が必要だとわかった
◆知識について--感想文の代表例--
- 知識が足りなく、説明できるレベルでなかった
- 自分の知識不足を思い知らされた
- 曖昧な知識ほど役に立たないものはないと思った
- 曖昧な知識しか出てこず、自信を持って答えられなかった
- 自分に知識をインプットするだけでなく、他人にわかりやすくアウトプットできるようになりたい
- 一生懸命考えるので知識が身に付く
- 臨床の現場で1つの質問に答えるには、その後ろに何倍もの知識が必要だと感じた。
◆考察・まとめ◆
- 「口頭の質問は難しい」と感じる学生が多い結果となった。
① 知識の曖昧な記憶
② 聴いて、頭の中でまとめて、口頭で伝えることに不慣れ
によるものと推察される。
➡ 答を選ぶための丸暗記、曖昧知識ではなく、コーナーポイントを理解した知識の構築が必要であることに気付かせた。
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社会人経験のある学生は、良い意味での“場慣れ”があり、薬学知識を比較的スムーズにアウトプットできるのではないかと考えられる。
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多人数での行動を好む学生は、反面、一対一でのコミュニュケーションである口頭試問には抵抗感があり、臆したり戸惑いがあることが示唆された。
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臨床で活躍するためには、
口頭の応答に対する嫌気や苦手意識を解消しなくてはならない。
➡ “口頭アウトプット形式の演習”を繰り返して、一対一でのコミュニケーション能力(慣れ・コツ)も身につける必要がある。