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「日本語リテラシー」という取り組み

森下 育彦

 京都精華大学 共通教育センター日本語リテラシー教育部門 部門長

 

概要:「日本語リテラシー」は、京都精華大学の共通教育構築の一環として展開するプログラムである。我々は<書く=考える>営みを内発的なものにするためには、文章化される対象が自分自身の生活実感に裏づけられた意味を持つ必要があると考えている。そこで本プラグラムでは「“私”のことを書く」という課題を設定し、スタッフとの対話関係によって自己理解を深め、他者に伝わる言葉の獲得を目指している。本取り組みは内発的な意欲を高め、さまざまな学びへの土台を作ろうとする試みである。

キーワード:書く=考える、添削、対話関係、内発性、自己論述の深まり 

京都精華大学日本語リテラシー教育部門
京都精華大学日本語リテラシー教育部門のウェブサイト(現在再構築中)

取り組みの背景

  • 学生の活字離れと学習意欲の低下にどう対応するか
  • 「読む・書く・考える」能力をどうやって育てるか
  • 関心が自分と身のまわりのことに限定されている学生をどのようにして自立的な学習者に導くか
  • 「読む・書く・考える」能力を人文学のみならず、芸術・デザイン・マンガの諸領域に活用する可能性をどのように拓くか

取り組みの位置づけ

「表現の大学」の戦略的FD

京都精華大学では、2008年度から基本戦略「教学改革2012~時代を牽引する表現の大学へ~」を策定し、2012年までの戦略構想を基に、ビジョンの実現に向けてFD活動に取り組んでいる。

 seikaFD.doc

 

 ■2011年度 日本語リテラシー

 ichiduke_2011nichilite.ppt 

 ■「日本語リテラシー」におけるPDCA

 ichiduke_nichilitePDCA.ppt

取り組みの内容と方法 (その1)

授業は自分自身の経験を素材とした課題作文への取り組みを柱として行われる。原則として三週間(1クール)を使って文章を執筆する。課題作文の執筆はメモ作りから、下書き、個別面談などすべての過程が講師および助手(チューター)との対話関係に基づいて行われる。

 取り組みの内容と方法 (その2

<授業計画(例):2010年度 Nクラス> 

・前期

 (第1クール)

              課題: 「記憶に残っていること」

              狙い: 自分の経験とそのときの感情を生き生きと叙述する

 (第2クール)

              課題: 「私の苦手なもの(こと)/嫌いなもの(こと)」

              狙い: 無難な言葉に収まりきらない自分の感情を表現する

 (第3クール)

              課題: 「私のこだわり」、「私のひっかかり」

              狙い: こだわり、ひっかかりの自分にとっての意味を捉え返す

 (第4クール)

              課題: 言葉の世界の多様性を学ぶ

              狙い:      1)辞書の世界で遊ぶ

                            2)詩的表現への招待

 (第5クール)

              課題: 「自己理想」

              狙い:      1)自分が大切にしているのが何なのかを明確にする

                            2)自分が大切にしていることを他者に伝わる言葉で表現する

                            3)なぜそのことを大切にしているのかを掘り下げる

 

・後期

 (第1クール)

              課題: 「記憶に残っていること」

              狙い:      1)自分の経験とその時の感情を生き生きと叙述する

                            2)前期授業開始時点とは異なる自分を発見する

 (第2クール)

              課題: 「場所」「場」

              狙い:      1)五感を喚起する表現を試みる

                            2)「場所」「場」と「私」の関係を意識して考察する

 (第3クール)

              課題: 「私のお気に入り」

              狙い:      1)「お気に入り」の対象のよさが何なのかを明確に表現する

                            2)「お気に入り」の対象のよさを他者に伝える

 (第4~第5クール)

              課題: 「自由課題」

              狙い: 一年間の集大成となる充実した文章を執筆する

  <授業形態>

  jyugyokeitai.ppt

取り組みのポイント

 --「自己論述」の深まりについて 

<考えること、文章を書くこと>への意欲を学生から呼び覚ますという課題に対して「日本語リテラシー」が、“私”そのものの言語化--「自己論述」--を中心軸とする授業プログラムと課題の設定を行うのはなぜか。

 

1 問題意識

社会的あるいは専門学術的なテーマと“私”の存在との乖離、そしてその慢性化が、高等教育の実践に関して、近年さまざまな現場で指摘されている。このような乖離は、<書く=考える>という営みの大部分が学生の中で、単に外的・形式的に課され、こなされるべき「義務」として受け取られてしまい、内的な必然性をともなった学びと表現への「模索・試行」となっていないという事態のあらわれではないだろうか?

2 “私”をめぐる事柄を考え、書くこと

<書く=考える>営みを、学生自身にとって内的な動機、あるいは必然性をともなった--“内発的”な--行為として導き出すためには、取り組むべきテーマを、一足飛びに現代社会や歴史、あるいは専門学術知識に関連づけるのではなく、だれもが必ず関心をいだく基礎的な経験への注目を促す形で設定することが必要である。この観点から「日本語リテラシー」では、“私”をめぐる事柄の文章化に重きを置く「自己論述」系のテーマ設定を行っている。

書き手である学生が文章作成を通じて、“私”自身が経験の中で実際に感じ取ったものを言葉によって確かめ直し、またその成立ちや理由を探る作業を実体験するという点が、このような仕方でのテーマ設定のメリットだと言える。そして、「日本語リテラシー」課題作文の狙いは、文章化される(内的・外的な)諸現象が、取り組みの中で個々の学生にとって、自分自身の生活実感に裏づけられた意味を帯びたものとして意識され、対象化されてくることである。対象に対する自己の主体的な関係づけがこうして可能となるからである。

3 「対話」の中で考え、書くこと

“内発的”に<書く=考える>可能性は、しかしながら、単に課題を学生に与え、取り組みの狙いやメリットを説明するだけでは実現しない。それゆえ「日本語リテラシー」の授業実践にとって、個人面談や添削といった「対話」によるサポートはきわめて重要な位置を占める。「対話」の中で考え、書く環境において講師・助手は、学生の課題作文にとって最初の読み手となる。そして、個々の学生が何を、どんな語り口で伝えようとしているのかを読み取り、その文章表現に応答を返すことが講師・助手の役割である。

「対話」において書き手としての学生は、読み手という「他者」に“私”の内にあるものを鮮明に伝えうる表現を探して文章を推敲する苦心を経験する。しかし、そこでは同時に、この「他者」を説得したり、「他者」からの共感を獲得したりすることの達成感、満足感、喜びを実感することもできる。“私”自身を素材とし、「対話」の苦心と喜びを通して粘り強く文章を考え、書くことで、学生は自己理解を深める言葉と、「他者」と考え合うことを可能にする言葉とを自分のものにしてゆくのである。

取り組みの画像・映像

(↓指導の様子)

   

  

(↓添削例)

torikumipoint_tensaku1.jpg

学生に対するインパクト (その1)

<受講生の声>

  • 前期はなぜこうも自分の気持ちばかりを捉え返さなければならないのか、すごくつらいと思った。しかし後期の最後に、かなり遅かったが捉え返すことで自分の姿が見えたのは感動だった。
  • 客観的に自分の気持ちを表現しようとするのが、楽しんでいたおもちゃの仕掛けを自分で壊すみたいでひどく怖いと思った。しかしこの怖さを乗り越えて分かったことは「気持ち」には「理由」があるということだ。
  • 今までは「こう書けば道徳的なように見える」というお決まりの流れで書けばよかったがこの授業では通用せず、自分の考えを自分の言葉で書くことを求められたので辛かった。回を重ねるごとに書くことで、結局自分はこう考えていたのかと自覚したり、その考えの甘さを添削で実感したり、とても有意義で楽しい一年でした。
  • 色々なテーマを通して書くことで自分と向き合うことができ、妥協しあざむいてきた自分の本意をもう一度見られるようになった気がする。
  • 文章を書くのは苦手だったけど、書くのが楽しくなってきた。思ったことを書きとめたメモを読み返したり、思い切って捨てるのも面白いと思えるようになった。考える幅が広がり、日常的なちょっと考えたことも書くことにつなげるようになった。
  • 文章を書くという態度が決定的に変わった気がします。自分の中の言葉というものが、他者と共感できる可能性があることに気付いたのはとても重要なことでした。

 学生に対するインパクト (その2) 

 <アンケート: 2010年度 Nクラス 後期>

 

  問1: 「日本語リテラシー」を一年間履修して満足しましたか?

 

  問2: 講師は学生に合った授業を展開していましたか?

 

  問3: 講師・助手は学生の質問・相談に対し親切に答えましたか?

 

  問4: 講師・助手による作文への添削・コメントは参考になりましたか?

 

  inpact.doc

本実践の今後の展望

  • 芸術・デザイン・マンガ学部を視野に入れた全学部への導入を目指す
  • 各学部における専門教育との連携の強化
  • 各学部の専門教育との橋渡しになる新カリキュラムの開発

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