[ビデオ教材を用いた産学連続教育]

鈴木美伸・法政大学 企画・戦略本部

 概要:法政大学では、2010年度から5年間に渡って行われた文部科学省『大学生の就業力育成支援事業(就業力GP)』採択プロジェクトに参画し、大学の学びと社会の実践を連続的に接続するための様々な教育手法を企画実践してきた。本実践はその取組のひとつであり、企業の仕事をビデオ教材化することにより、就業経験のない大学生にケーススタディを行うキャリア教育メソッドの構築と同時に、産学連携・連続の若者育成システムの構築を目指す試みである。

プロジェクトの動機

1.大学連携(水平連続)による授業開発メソッドの構築

文科省の事業である「産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業(法政大学内では『産学連携3D教育プロジェクト』と呼称)」の一環としてこの4年間で開発してきた様々なメソッドを、多くの大学の教育者と意見交換しながら次のステップを考えるため。

 

2.産学連携(垂直連続)による人材育成メソッドの構築

企業の実例を元にしたビデオ教材の制作は、制作協力企業における人材育成(社内教育教材)に活用できることもわかり、大学と企業が同じ教材(企業向けには改訂も可能)を連続的に使うことにより、「大学の育てる人材」と「企業の求める人材」を接続するため。

 

3. 大規模対応型の就業力育成メソッドの構築

大学における学びと社会における働く力の接続は大きな課題であり、効果の高いPBL型授業はその一つの回答ではあるが、もう少し大規模な授業が可能でかつ教員の負担が少なく社会の実例を教室で伝えるため。また、ビジネスジネススクールのケースメソッドをビデオ教材で行うことは、就業経験のない大学生にもイメージが湧きやすく理解の促進を狙えるため。

 

▼参考サイト(法政大学産学連携3D教育プロジェクト)
http://3dep.hosei.ac.jp/

これまで開発したビデオ教材

1.「ハタラクチカラ」(旅行代理店)

2.「営業部物語」(産業用機械メーカー)

3.「ツナゲルチカラ」(化学系専門商社)

4.「海に越える”夢”」(玩具メーカー)

5.「ヤリヌクチカラ」(文房具メーカー)

6.「百貨店物語」(大規模小売店)

7.「ハカレルチカラ」(計量器メーカー)

8.「企画って、誰のもの?」(化粧品メーカー)

9.「ウゴカスチカラ」(信用金庫)

プロジェクトの成果物

1.ビデオ教材の特性を活かしたグループワーク型授業の開発

 ⇒授業レジメ、ワークシート(提出用)の作成

2.上記授業の教員用指導要領(マニュアル)の開発

 ⇒ビデオ教材(ビデオ教材の解説ビデオ)・書籍として作成

3.大学連携によるビデオ教材授業の開発

 ⇒ビデオ教材研究会の開催

ビデオを視聴した学生の感想(リアクションペーパーから)

・飛行機による場所の移動感覚が欲しかったです。

・最後のトラブルのときに、上司があまりにも落ち着きすぎているのが違和感がありました。

・素人さんと比較すると、やはり役者さんはすごいと思いました。正直なところ、プロでない方の演技が気になった。もう少し気にならないようにして欲しい。

・全体的におもしろくて、学習用ビデオという感じを思わせないつくりで良かったと思います。

時間軸が分かりにくかった(最後に一カ月、というナレーションがでて驚きました)ので、提案や現地訪問など、場面が切り替わるところに仮の日付などいれるとスピード感が分かるのではないかと思います。

会社の組織構造も、学生の身分では分かりにくいので、組織図などをはさむとイメージしやすいのではないかと思いました。

・企業において理念というものがどのように使われているのか、なぜそれが存在するのか、という点に触れると、普通の学生にはとてもイメージしずらい企業理念・使命・価値観の部分についての理解が進むとともに、自分自身が大事にしている価値観は何か、などについても内省する機会になると思います。

・主人公が様々な壁にぶつかって一歩づつ成長していっている、という見せ方はわかり易かったのですが、逆を言えば、目指すべき理想像を踏まえての行動は表現として少ないと思いました。どちらも大切なスタンスだと思うので、学生へのメッセージング、という意味でも、ロールモデルの提示などがあったほうがわかりやすいかもしれません。前回のセッションで教えて下さった、企業の創業者のお話がとても興味深かったので。)

・表現については、もっとテロップ的なものを利用すると、視覚的にも見やすいのではないでしょうか。

 

授業を履修後の学生の感想(インタビュー取材)

◆将来の進路(大学で変わった、見つかった)

  ・知的支援でハードルの高い仕事に関心が出てきた。(コンサル系)

  ・自分の向上心を発揮でき、社会貢献できる仕事に就きたい。(IT系)

  ・難題を解決できる仕事に意欲が出てきた。(コンサル系)

  ・外交官希望だったが、スポーツでの地域再生にも関心が湧いてきた。

  ・銀行希望だったが、教育関係に関心で出てきた。

  ・具体的ではないが、リーダー的なことができるかも(それまでリーダーは無理だと思っていた)。

 

対象となるビデオ教材を用いる授業

・法政大学「キャリアデザイン入門」 1年次対象(春学期:4~7月)

・法政大学「キャリアデザイン演習」 1年次対象(秋学期:9~1月)

・法政大学「就業基礎力養成-1」 2~4年次対象(春学期:4~7月)

・法政大学「就業基礎力養成-2」 2~4年次対象(秋学期:9~1月)

・法政大学「就業応用力養成-1」 3~4年次対象(春学期:4~7月)

・法政大学「就業応用力養成-2」 3~4年次対象(秋学期:9~1月)

*各授業において、ビデオ教材は2~3回使用。

▼各授業におけるビデオ教材の使用例

ビデオ教材の体系

作成当初は体系化を考えていたわけではないが、制作数を重ねる毎に舞台となる業界を広げ(二次産業から三次産業)、求められる能力も低学年向けのものから高学年向けのものへ高めていった。

現時点(2016年3月)で9本のビデオ教材が完成し、今後も継続して制作していく予定である。

授業の具体的進行

ビデオ教材授業は、数十名の小規模なものから、数百名(法政大学では最大550人が一度に受講)まで対応しやすい。以下の図は、標準的な授業の進行であるが、ビデオ教材の視聴の前に、個人ワークまたはグループワークでビデオ教材の視点を考えさせる時間をとるのが効果的である。短時間でも自分の頭で考え想像させると、ビデオ教材で示される社会の認識とのズレを理解させられる。この事前ワークをなしにビデオ教材を見ると、単なる受け身の授業となってしまう恐れがある。

また、視聴中はリアクションペーパーにメモをとらせることも重要である。この作業が、視聴後のグループディスカッションにおいて発言の積極性を生むことになる。

グループディスカッション後は、代表者に報告(プレゼンテーション)をさせて授業全体での学習に広げたい。

法政大学の「授業改善アンケート」から

ビデオ教材を用いた回の授業だけの回答ではないが、当該授業を受けた学生と法政大学全体の授業アンケートを比較したのが以下の図である。(今期分はまだ集計中。)

筆者の授業(キャリアデザイン演習)では、「知識」よりも「思考力」「新しい発見」「進路選択」に役だったとの回答が多い。この授業では、グループディスカッションを多く行ったため、こうした結果になったと思われる。この回答(授業成果)は授業の進め方で変えることができよう。

*授業改善アンケート全体の回答数は、約3000人

ビデオ教材研究会の開催

ビデオ教材はあくまでも「教材」であり、この教材を活用する教員の指導手法があって授業は完成する。それぞれのビデオ教材では、求められる知識や能力を想定して作成されているが、教員の視点を変えることによって様々な活用方法が考えられる。例えば、シリーズ3(専門商社が舞台のビデオ教材)では、新入社員に求められる心構えやコミュニケーションスキルを指導することもできれば、経営学(マーケティング手法)を教えることもでき、定量・定性調査の違いを教えることもできる。

こうしたビデオ教材の使用方法は、各大学・学部毎によって異なるため、2013年頃から試験的に有志の教員が集まり研究会を始めた。2015年度からは、その内容を体系化して定期的に開催した。

この研究会はビデオ教材授業を行いたい新任教員、または大学キャリアセンター職員の研修の場にもなる。

*各日とも90~120分で開催。8月の集中勉強会は、90分×3回×2日で実施。毎回、15~20名が受講。

協力者

▼ビデオ教材制作協力企業

長瀬産業株式会社(シリーズ3)

コンサイス株式会社(シリーズ5)

株式会社イシダ(シリーズ7)

東京東信用金庫(シリーズ9)

株式会社ANA Cargo(シリーズ11)

▼ビデオ教材研究会参加大学       

 青山学院大学          

 お茶の水女子大学             

 実践女子大学                   

 上智大学                     

 昭和女子大学

 東京家政大学

 東京成徳大学

 東京理科大学

 二松学舎大学

 山梨学院大学

 立正大学

 早稲田大学

 ほか

想定していなかった成果(トラブル)

授業の運営をしているなかで、予期せぬ出来事が3点あった。これらは今後、積極的に授業の中に取り込んでいきたいと思う。

聴覚障がい者の学生にとって、ビデオ教材は効果的であるが、字幕のないシリーズ(全体の4本)を使う際は事前にノートテイカーにビデオ教材を渡して予習してもらうと効果的である。

(実際は、この準備を忘れて障がい者が精神的に不安定になったトラブルがあった。)

 

参考資料・文献

筆者の考える「産学連続教育」の概念図である。今後、ビデオ教材以外の「ビジネスコンテスト」や「コープ教育」への教育手法の連続化にも取り組みたい。

 

▼参考資料:厚生労働省委託 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2015)大学におけるキャリア教育プログラム事例集

 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/0000087176.pdf

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