教室と社会をつなぐウェブデザインの授業

- 授業内インターンシップの試み -

清泉女学院短期大学 国際コミュニケーション科 長田尚子(第1期MOSTフェロー)

概要:長野県長野市に位置する本学国際コミュニケーション科では、地域の事業所で自律的にキャリアを形成していける女性の育成をめざし、様々な授業改善を行っている。このコースポートフォリオでは、ウェブ制作の基礎的な科目である「ウェブデザイン概論」の授業を通じて実施した「授業内インターンシップ」の試みを報告する。従来の授業で使っていた市販のテキストをそのまま用いて、授業を通じて行う学生の学習活動を「顧客から請け負ったウェブ制作の作業」と位置づけ、ウェブ制作会社に勤務していることを想定して活動を進めていく。この実践を通じて、学生たちがテキスト通りにウェブを完成し試験をパスして終わるのではなく、ウェブが社会に対してどのような関わりを持ち、それをとりまく職業がどうなっているのかについての理解を深めることを狙っている。

実践の背景

平成23年1月の中央教育審議会による「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」では、「学校から社会・職業への移行」の問題が大きく取り上げられ、キャリア教育の一環としても職業教育が位置づけられている。答申の中では、「具体的な職業・業種を意識した専門教育の中で、職業へ円滑に移行するための専門的な知識・技能の育成が求められ(中略)職業実践的な実地体験を主眼とする長期のインターンシップ等(後略)」の重要性が提起されている。またそれに対する方策の中では、本学科のような専門的な職種を想定しない文系学科における職業教育の難しさも指摘されている。

本学科の卒業生の大半は地域の事業所で事務系の職種に就く。女性事務職のキャリア形成に関する先行研究によれば、周囲の支援はもとより、補助的事務を通じて得た業務知識や商品知識、ジョブ・エン リッチメントの姿勢、仕事経験の拡大など、より広い視点を持って業務に従事することがキャリア形成に向けた成功要因であると指摘されている(浅海、2006;筒井、2001)。本報告が対象とするのはウェブデザインの授業であるが、一般に情報系の科目では、技術的なスキルの習得が重視され、社会との関わりを含めた視点の拡大までを想定した授業を行うことは時間的に難しい。しかし、履修する学生がそのスキルを将来的に用いる文脈を示すことはある程度必要であろう。また、情報システム開発教育においては、テキストの指示通りにしか進められない学生の増加が認識されているという報告もある(神沼、2008)。業務全体の流れを把握し、次に行うべき手順を考えながら自律的に作業を遂行するという経験の重要性も示唆される。

ウェブデザインの授業

「ウェブデザイン概論」の開講:本学科では、情報系の必修科目の中の2コマ程度を使ってWebとHTMLの概要を教えるという形式がしばらく続いていた。しかし、学生の興味関心やPBLやゼミの活動を通じてのウェブによる情報発信のニーズの高まりがあり、2010年度から「ウェブデザイン概論」という科目が情報ビジネス系の選択必修科目として設置された。授業ではインターネットの基本的な仕組や関連の法律を学び、実際にウェブサイトを構築する演習を行う。地域の事業所において若手の女性社員が独自にウェブサイトを構築するということはまれであるが、総務に配属されウェブサイトやブログの情報更新を担当したり、ウェブの仕組みを使ったソフトウェアのコールセンターを担当したり、事務系職種においてもウェブのスキルが求められることが多いということは卒業生の声からも認識できていた。

課題の認識と改善案:授業としては、教科書に従ってWeb、HTML、CSSの機能と仕組みを説明し、教科書に示されている例題を間違いなく完成するという活動を中心としていた。しかし、他のプログラミング系の授業にも共通すると思われるが、授業を受身的に聞き、教科書に書いてあるとおりに入力するだけにとどまり、思考力を働かせて主体的に学ぶ方向へと学生を動機づけることができないという課題があった。そこで、2012年度から、授業のコミュニティ自体をWeb制作の会社と見立て、その会社が顧客から請け負ったウェブサイトの制作を行い、最後に報告書を添えて納品するという文脈で授業をインターンシップとして展開することとした。このスナップショットの次項以降では、このような授業内インターンシップの実施状況を報告する。

「情報メディア概論」へ:2013年度から「ウェブデザイン概論」の授業は、クラウド、SNS、スマートフォンなどの新技術への対応を行い、「情報メディア概論」として内容を再構成し、現在は「情報メディア概論」として開講している。2012年度から初めている授業内インターンシップの考え方は現在も引き継がれ、教室と社会をつなぐことを念頭においた授業として発展を続けている。

実際の授業

 各回の授業:ここでは2012年度に授業内インターンシップの文脈を導入して行った授業についてまとめる。シラバスに示す各回の授業は、以下に示すとおりに市販のテキスト(当時はFOM出版のものを利用)を用いた一般的なウェブデザイン関係の授業とそれほど変わらない。しかし、表の右側の欄に示したように、授業全体をインターンシップとして位置づけているため、進捗管理表、作業報告書、サイト制作報告書、といった提出物を制作したファイルとともに提出することを義務付けている。

 授業内インターンシップの文脈:この授業の全体の展開は次のように設定し、授業のオリエンテーションで学生に提示した。

あなたはSJCシステムの社員です。HIR不動産様からウェブサイト開発依頼がきています。手順書を確認しながらウェブサイトを開発し、完成したら、お客様あてに報告書をまとめて、ウェブサイトのファイルと一緒に納品してください。毎日の作業は「進捗管理表」を使って予定を立てながら進め、実施状況を報告してください。作業の進捗は定期的にまとめ、お客様の担当者に報告するための文書として「作業報告書」を提出します。最後のサイト制作報告書には、今回開発したサイトの特徴や使い方を含めてください

なお、教員は上記システム開発会社の上司、ウェブサイト制作を発注したお客様の担当者という立場で、情報提供やコメントを行った。

サイトの制作

制作したウェブサイトの画面サンプル:(FOM出版のテキストを参考にして制作している)

 

サイト制作報告書の課題:HIR不動産から受託して開発しているという想定のもとに、以下の要領で学生に報告をもとめた。「今回制作したサイトについて、サイトの目的、ページ構成、特徴、使い方、ファイル構成などをまとめてください。本報告書ファイルを含めて納品用フォルダに納め、全体を圧縮し、納品先に提出してください」。なお、この前年度までにおいても、同様のサイトを同じテキストに従って制作し、最後に制作報告書をまとめていた。ただ、インターンシップという設定にはしていなかったため、授業の一環でまとめて教員に提出するという文脈で行っていた。

学生の学び

 本学科の「ウェブデザイン概論」の授業では、学習内容は同等のまま、授業内インターンシップとして、職業実践的な文脈を導入することを試みた。具体的には学生はウェブデザイン会社の社員であるという設定におき、その設定の中でウェブサイトを構築し、顧客役の教員に報告書を提出するということにした。文脈導入前の2011年度と文脈導入後の2012年度を比較した結果、学期末の筆記試験の点数に大きな変化はなかったが、ウェブサイトを構築した結果を報告書としてまとめる課題については、2011年度に比べ2012年度は内容が深まったことが確認された。ウェブサイトの制作報告書では、技術的な内容に加え、そのウェブサイトの機能の特徴や使い勝手など、プラスアルファとなる点を一緒にまとめることにより、制作者の理解が深まるとともに、依頼した顧客の満足度も高まる。その観点で、2011年度の報告書(提出数15通)ではプラスアルファポイントの数が平均1.67であったが、2012年度の報告書(提出数14通)では平均4.21となった。

 

サイト制作報告書のサンプル(抜粋)

授業の振り返り

 学生による授業評価アンケート(5段階)では、2011年から2012年に向けて、以下の点を中心に主たる改善がみられた(かっこ内は2011年の数値 2012年の数値)。欠席や遅刻をせず授業に出席したか(4.21 4.64)、授業への取り組み(4.26 4.79)、授業時間以外の学習(4.11 4.64)、資料提示の工夫(4.56 4.71)、満足度(4.58 4.64)である。2012年度のウェブデザイン概論を受講し、就職した会社のウェブサイトをデザインしたり、販促用のブログの更新を担当するが卒業生も出始めている。

事務系職種については、職業実践的な長期インターンシップに参加することは困難な場合が多い。その一方職場で求められる内容は高度で広範囲であり、公式な研修の機会を得られないことも多い。このような環境において、情報システム関係の授業において授業内インターンシップを学習活動として導入することができれば、地域の事業所で活躍するための素地を専門科目の中で一定程度養うことができるものと考えられる。

参考文献

浅海 典子 (2006) 女性事務職のキャリア拡大と職場組織, 日本経済評論社.

神沼 靖子(2008)情報システム開発になぜ「考えさせる教育」が必要か, 情報処理学会研究報告 IS-105(6), 35-38. 

筒井 美紀 (2001) 周辺市場・若年女性労働者の「より難しい仕事の遂行意欲」の規定要因-自己有能感の重要性, 教育社会学研究 68, 147-165.

(テキスト) よくわかるXHTMLとCSSによるWebサイト作成(2006) FOM出版.

謝辞

この実践研究の一部は、JSPS科研費 24530981 の助成を受けたものです。

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