教員の相互授業参観による相互支援型FD体制の構築

澤田治美・岡澤潤次・並松善秋・森田健宏

関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部 FD委員会

 

概要:本学では、教員の相互支援体制に基づくFDの実質化に向けた取り組みとして、「相互授業参観」を積極的に取り組んでいる。本事業では、参観後に教員間で単に感想を述べ合うのではなく、FD委員会において観点が精査された「授業者による事前解説シート(授業者記入用紙:A票)」と「参観者による建設的な意見を提示するシート(参加者コメント用紙:B票)」を用いた交流により、有効性を高めるよう努めている。実績として、2010年度では145クラスの授業参観交流が行われている。本発表では、相互授業参観のこれまでの取り組みと考察、さらに今後の課題について報告する。

キーワード:授業参観 相互支援 建設的な意見交流 教育基礎力 参画型FD

本学FD委員会に関する情報

1. 本学FD活動の推進について

 

本学は、「国際社会に貢献する豊かな教養を備えた人材の育成」と「公正な世界観に基づき、時代と社会の要請に応えていく実学」という建学の精神に基づき、国際社会で活躍できる資質を養うための言語、文化、幅広い教養の教育に永年尽力してきている。1945年に創設された「谷本英学院」に始まる本学は、故谷本貞人総長の教育に対するたゆまぬ発展の想いを表す「不留」の精神をもとに、これまで常に各教員において当然の責務として教育の質の向上に努めてきた。さらに、これまでの教員個々の教育成果を結集させ、体系化すると共に、創設者の想いの継承、大学全体としての教育方針の相互理解と、多様な価値観に基づく教育対応力の向上をねらい、理事長、学長の教育改革への想いと組織化に対する熟慮のもと、2008年度より新たにFD委員会が組織されている。

本学FD活動の推進にあたっては、全学的な取り組みとして教員の参加率が高いものとなるよう、「誰もが参加しやすい、実感できる制度」の構築を特に重視し、これまでの各種FD事業の平均参加率は専任教員全体の22.5%(平均70名)となっている。また、FD活動推進の目標として、「本学の授業が一層充実したものとなるように、各自が互いの知見、情報を交流しあう「場」を構築することに重点を置く」ことが委員長より教授会に提言され、FD活動の各種事業についても教員間の相互支援体制を重視した形で展開されている。

本学FD活動の各種事業のうち、特色を示すことができる活動の1つとして「教員の相互授業参観」があり、この活動を中心として教員間の教育力向上についての相互支援体制の確立に努めてきている。具体的なねらいとしては、教員が学生の学びの「場」に具体的に参加することを通じて、教員相互に授業研究の活性化が期待でき、加えて学生の主体的な学びに影響を与えることも可能であると考えている。

本発表では、本学における「教員の相互授業参観」の概要とその成果、さらに今後の課題として考えていることについて、以下に詳述する。

2. 相互授業参観制度の概要

 

本学では、教員の相互授業参観を春学期(4月〜9月)、秋学期(10月〜3月)の両期に実施しており、それぞれ教員(専任・非常勤共)に1回ずつ以上の参加を求めている。初年度は、各学期2週間を設定していたが、2年目は1か月間、3年目は2か月間と参観期間を徐々に拡大して、参加の機会を増やした。

(1)参加申込に参観可能授業等の特段の制限は設けず、全科目を対象にしている。参加申込期間に本学ネットワークシステム(K-GENESYS)より、参加可能曜日・コマ、授業名を選択入力することでエントリーが可能となる簡便なシステムを採用している。

(2)その後、授業者には、参観希望日、参観者等の情報が送信される。これに対し、授業者は、参観日までに「授業者記入用紙(A票)」を作成して参観者に提示することとなっている。

(3)参観日には、参観者は授業教室の最後列に着席し、(ときには、学生のグループ活動に参加するようなことも自然に生じることもある)、全ての授業内容を参観し、授業終了後に「参観者コメント用紙(B票)」に記入し、一旦FD委員会に提出した後、授業者にフィードバックされる。

※(3)について一旦FD委員会に提出を求めるのは、フィードバックを確実にするとともに、建設的なコメントが単に授業者ひとりに伝えられるのではなく、FDニューズレター等に紹介して、全学の教員の授業改善の参考に供するための原稿収集の目的がある。

なお、参観者・授業者の授業選択履歴等については、委員会事務局(教務課)及びFD委員会において管理を厳格に行っている。

<授業交流促進のためのシート>

 「授業者記入用紙(A票)」 「参観者コメント用紙(B票)」


3. 「相互授業参観」の教員参加状況

以下に、本学における「相互授業参観」の教員参加状況のデータを示す。FD事業として制度化した「教員の相互授業参観」は、導入後3年目であるが、2010年度実績は、年間193クラスで行われており、初年度と比較して「2.61倍」と著しい増加が認められる。

 

また、各教員の参観授業の選択傾向を分析した結果、以下の通りとなっている。

4.授業参観の交流事例



5. 取り組みの考察と今後の課題

5-1. これまでの取り組みについての考察

以上の結果から、本学における教員の「相互授業参観」が比較的早い段階から参加率の高いFD事業として導入することができていることがわかる。この理由については、FD委員会による度重なる参加呼びかけやネットワークによる管理システムの活用など、様々な啓発努力によるものもあるが、制度として「参加義務」ではなく「努力参加」にしていることを考えると、(1)教員間で教育改善知見に関する多様なニーズが存在していること、(2)学生による授業評価のような単一方向的かつ断定的な情報提供ではなく、教員間の相互支援意識による建設的な意見の情報提供が可能であること、(3)教員の同僚性に基づく、ある程度対等で「顔の見える」意見交流が可能であること、(4)授業者・参観者のニーズに応じて意見交流の機会の拡大が可能であること、(5)コメントシートによる授業者側の説明機会が保障されており、これにより参観者のコメントが授業者のニーズに合致したものになること、などが考えられ、これらは、具体的に「FD活動のあゆみ(本学FD活動報告書)」の創刊号(2010年3月)と第2号(2010年12月発行)に寄稿された多くの感想の中から確認できた。

まず、(1)については、教員の教育歴や担当科目等に応じて抱く悩みや問題点が異なるのは当然のことであり、「授業参観」では、そのニーズに応じて個々に任意で参観する授業を選択できることから、一斉型研修会とは違った研修の効果が感じられていると思われる。次に、(2)・(3)については、学生による授業評価アンケートのみを教育力理解の依拠にしがちな大学界の実情とは異なる手法が導入されていることへのある程度の期待と評価であると思われる。すなわち、教員・学生の立場は固定的なものであり、本来、評価になじまない関係性であることが、これまでも一部の論考等で述べられてきている。しかし、学生による授業評価アンケートが一般的なFD事業として大学界で多く導入されていることを考えると、やはり受益者である学生のために教員が最大限できることを常に模索し続ける姿勢が重要であるためと考えられる。ただし、学生の最大の利益を願う教育活動が学生迎合的でなく、教員の主導性に基づくものであるとすれば、教員間の相互支援もまた重要であり、そのシステムとして「授業参観」が適切であることは、潜在的にも理解されていると思われる。さらに、(4)については、今後のFD活動の実質化には、インフォーマルな教育支援交流が重要であることは数多く語られており、建設的な意見交流の中から、例えば、他の研究者の紹介が受けられるなど人間関係の拡大の可能性や、参観後の継続的な意見交流による時間的拡大の可能性なども考えられる。本学では、当初から上記の<事例1>のように発展的な関係が生まれてくることを期待していた。なお、(5)については、そもそも教育活動には必ず教育的意図が存在するにも関わらず、様々なFD事業において教育者(授業者)側の意図が説明されることなく、評価されてしまうという問題点があげられる。その点からも、「授業参観」における事前のコメントシート交流により、授業者側の意図が反映されやすい取り組みとなっていることが参加促進の要因になっていると考えている。

5-2. 今後の課題
(1)コメントシートのさらなる改良と参観者の観点マニュアルの整備
コメントシートの様式については、意見を集約し、一度改訂を行い、記述項目の簡略化を図った。参観者の観点の項目も細部にわたっていたが、不評であったため、参観者の自由記述に変えた。この結果、参加数が増加したが、細部に関しては常に検討していく必要がある。また、参観者が授業をどのような観点で見ると、どのような理解が可能となるのかなど、「参観者の観点マニュアル」を作成することも検討している。 

(2)教育交流促進のための「FDサロン」の開設
上述の通り、相互支援体制を重視した今後のFD活動の展開において、インフォーマルな教育に関する意見交流の「場」が常々必要であると議論されてきている。「授業参観」が一時的なものとして完結しないようにするためにも、現在
「FDサロン」の開設を検討している。ただし、本来的な意味での教育交流の「場」となるよう、相互支援活動の充実が必要であると考えている。

(3)FD活動に対する個別支援体制の構築
一方で、学生による授業評価アンケートをはじめ、FD活動に対する多様な想い、意見があることは、どの大学でも否めないところであると思われる。その中で、積極的な意味合いで、問題意識を解決できる個別支援体制を構築することは必要であり、対象によっては授業参観との連携が可能であると考えている。

(4)学生によるFD活動への共同参画体制の構築
大学という学びの「場」において、教員の主導性と共に、学生の主体的な学びを促進することも、今日においては特に重要であると思われる。「授業参観」を1つの足がかりとして、学生と共に学びについて語り合うという共同性の実現にも展開させていきたいと考えている。

参考資料・文献

1. 谷本貞人(1988)「関西外大づくり三十八年 -若者の夢を育てて-」.

2. 久保田哲夫(2011)「サラダ・ボウルとしての大学 -大学における多様性の意味を考える-」関西学院大学高等教育研究, 創刊号, pp.5-16.

3. 田中毎実(2009)「相互研修型FDの組織化の可能性」京都大学高等教育研究, 14, pp.160-179.

【謝辞】本成果のデータ作成にあたり、公開事例の先生方、教務部課長矢野様、係長徳永様、職員西村様のご支援をいただきました。記して心より感謝申し上げます。

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