専門教育とキャリア教育の融合によるPBL実践例

岩田英朗 和歌山大学 経済学部 (FD委員長)

概要:価値観の多様化によって社会構造が大きく変容する現代において、国や地方公共団体を取り巻く環境は刻一刻と変化している。本学部では、公務の第一線で活躍されている公務員の方を講師に迎え、“公務に携わる人材に求められる資質”に関する学習、および行政が直面している様々な問題への知識深化による“生の行政”への学生理解を目的に、PBL形式の専門科目「現代社会実践論 -キャリアと公務-」(2単位)を平成25年度に初めて開講した。その詳細について、ここに報告する。 

 キーワード:専門教育・キャリア教育・PBL・地域連携・公務人材養成

和歌山大学 経済学部

取り組みの背景

  • 経済学部では、毎年300人を超える学生が卒業(平成24年度卒業生数:318名)
  • 就職希望者のうち、15~20%程度が公務員に(平成24年度実績:36名/13.7%)
  • 進路として公務員を希望する学生は60名を超える(伝統的に多くの公務人材を輩出)
  • 経済学・経営学に並び、法学に関する教育も伝統的に重視
  • 一方で、家族の意向や安定性の追及といった安易な理由で公務を希望する学生が増加
  • 平成24年度第二学期に教養科目「公務人材育成論」(2単位)を開講
    本学OB・OGを中心に、現役公務員によるリレー形式での講義を展開(対象は全学部)
    しかし、従来の受動的な授業形態では十分な教育効果を発揮できなかったと反省
  • 経済学部が従来から提供している専門教育およびキャリア教育をベースとする、アクティブラーニング形式の教育機会提供の重要性を認識
  • 公務に励むためには、幅広い教養と高い専門知識の両方を身に付けると同時に、action, thinking, team work 等、社会人基礎力の養成も不可欠

    国や地方自治体とタイアップし、PBL(Problem Based Learning)による教育機会の提供

キャリアセンター経済学部 進路・就職統計

和歌山大学「公務人材育成論」に登壇!
『ほっと!和歌山県』~和歌山県広報リレーブログ~ より

取り組みの位置づけ

「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」
(文部科学省中央教育審議会答申・平成23年1月)より

  1. キャリア教育方針の明確化
    • 教育課程の内外を通じた体系的・総合的なキャリア教育の推進
    • 体験的な学習活動の効果的活用
  2. 教育方法
    • 授業科目内容の実社会における適用
    • 受動的ではない,調査・実習・発表重視の授業の実施
    • 課題対応型学習の導入

・ 専門分野と職業の関わり方

『人文科学や社会科学等の分野では,専門分野と職業との結び付きは必ずしも強くないのが現状である。このような分野では,学生の勤労観・職業観や,職業に必要な能力を獲得する意識の形成・確立を目的とした教育を意識的に行うことが必要である。』

 

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そこで本学部では

“「答えのない問題」を発見→原因を探求→最良解ではないかも知れないが他解との比較による良解の導出”

に必要な専門的知識および汎用的能力の修得が可能となる、教育体制の充実を図る。

対象は経済学部に所属する、2年生以上の学部生

今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について

取り組みの内容・方法

授業の進め方:

  • 30代・40代の現役公務員を講師に招聘
  • 公務に関する全般的な説明の後、自身の経験に基づく「公務を遂行する上での哲学」を学生に披露
  • 講師が職務上で現在直面している課題を提示 ⇒ 学生へのミッション
  • 4~5名によるグループを構成
  • 問題解決に向けたグループワークの実施
  • グループ単位での企画提案書の作成
  • 講師に対する企画提案(グループ単位でのプレゼンテーション)
  • 講師による講評

授業構成(90分×15回)

1. プレゼンテーション(授業の目的・意義・社会人基礎力の重要性等)
2. グループワークの進め方や企画提案書の作成方法等
3. 和歌山市役所 福祉局こども未来部子育て支援課 副主査による講義

ミッション:

『総務省調査によれば、夫の育児参加時間が全国最下位の和歌山県において、夫の育児時間を長くする施策を策定せよ』

4・5. グループワークの実施
6. 発表と講評
7. 和歌山税務署 税務広報広聴官による講義

ミッション:

『適正かつ公平な賦課及び徴収の実現に必要な広報活動を提言せよ』

8・9. グループワークの実施
10. 発表と講評
11. 和歌山県 県土整備部都市住宅局 都市政策課長による講義

ミッション:

『私が市長になったら、和歌山をこう変えます!(政策提言)』

12・13. グループワークの実施
14. 発表と講評
15. 全体の振り返り(反省とまとめ)

評価方法:

  • 企画提案プレゼンテーションを基にした講師による評価
  • 企画提案プレゼンテーションを基にした学生による自己評価
  • 企画提案プレゼンテーションを基にした学生による他者評価
  • 企画提案プレゼンテーションを基にした教員による評価

についてチェックシートに基づく評価を実施。

結果は、学生に積極的に公開するよう心掛けた。

第一回授業のレジメ

評価シート
学生・講師・教員全てが記入

講師用評価シート(追加)
講師の方による評価を学生にフィードバックすることで、次のグループワークに向けたPDCAサイクル確立が目的

取り組みの視点

1. PBLの実践によって得られた知見・ノウハウについて、ぜひご教授頂きたい。

2. 特に、4年間を通しての効果的なカリキュラム編成の関する先行事例について、ご教授頂きたい。

学生・教員に対するインパクト

本授業における主要課題の一つである「社会人基礎力の養成」効果を図るため、受講する前と後での自身の社会人基礎力に関する自己評価を受講生に求めた。結果、13名より回答を得ることができた。

社会人基礎力(action, thinking, team work)から全12項目について、「非常に優れている」5から「著しく劣っている」1まで、五段階評価を求めた。その結果(全員の平均)を以下に示す。

 

同時に、学部共通授業アンケートの結果を以下に示す(有効回答数:12)。なお、自由記載においては原文ママである。

自由記載:

  • 3つのミッションが与えられたが、それぞれ与えられた期間が短すぎて腰をすえて取り組めなかった。1つないしは2つであれば内容の富んだことを発表できたのではないかと考える。
  • 1つのミッションの時間が短かったので、もう少し増やして欲しいです。
  • 公務委員の仕事をする上での悩み・問題というのを聞く機会はなく、また、それについて考える機会もなかったので、すごく良い経験になった。良い企画をつくるにはスケジュールがきつかった。良い経験ができたと思う。今後に生かしていきたい。
  • 今回の講義は、現役の公務員の方々が提示してくださった問題についてグループで取り組み、解決案を探していく中で現代社会の実情を知り、社会人基礎力を鍛えることができたと思います。ただ、初めて開講したものということもあり、スケジュールに関しては改善していただく余地があったと感じました。
  • この講義は、学生にとって非常に有意義なものだったと思うので今後も開講されることを望んでいます。

取り組みからの示唆

学生の意欲・能力について、教員認識との乖離を実体験

企画時点では、「受講者は公務員を志望している志の高い学生であるため、多少の内容過多にも耐えてくれるのではないか?」と教員は期待していた。従って、市・県・国という主な行政単位それぞれから講師を招聘するとともに、3回のミッション提示⇒グループワークを求めた。しかし、これは多くの学生にとってオーバーワークであった。

従って平成26年度は、ミッションの提示 ⇒ グループワークのサイクルを2回とすることで、学生への圧迫感を低減すると同時に、課題に対しより深い探索能力の開発に努める計画である。

PBLによる実践的教育手法の本格導入に際しては、体系的なカリキュラム構築が不可欠

「インターネットに限定せず、様々な媒体を活用しての一次資料の探索」「自らのアイデアの正当性を立証するためのアンケート調査」等に自発的かつ積極的に取り組む学生の出現を期待したが、十分な成果を認めることはできなかった。また、企画提案書の作成方法から効果的なプレゼンテーションの実施方法までも教授する必要性に迫られた結果、教員側にも不完全燃焼観が残された。

十分な教育効果を挙げるためには、PBLに取り組むための基礎的知識やグループワーク経験を、1年次より体系的に整備する必要性について、改めて痛感した。

学年を跨いだチーム構成によるグループワークにおける、高い教育効果

グループワークのためのチーム編成は、ミッション毎に変更した。同時に、2年生から4年生までが万遍なくチームに含まれるよう配慮した。その結果、上下間での様々な刺激・摩擦が生じた結果、多種多様な教育効果が認められた。

PBL(アクティブラーニング)による教育効果の再確認

特徴的なのは、team workに含まれる「傾聴力」に対する自己評価である。事前と事後の平均値は同じであるが、13人中4人までが事前より事後で低い自己評価を下している。同様に、柔軟性と規律性については3名が、状況把握力とストレスコントロール力では2名が評価を下げている。この現象はteam workにおいて特に顕著であった。

グループワークを通した企画提案書の作成および同書に対する講師講評により、受講前に抱いていた自身のコミュニケーション能力に対する自信が失われた結果であると推察する。

自己の不十分な点を自覚する機会を提供できた点で、PBLによる学習の意義が認められた。

取り組みの画像・映像

講師による授業風景 グループワーク風景
企画提案書の発表風景  
 

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