新入生合宿研修:コミュニケーション機会提供と学びの目的意識促進のこころみ

学生支援委員長 松永藤彦

東洋食品工業短期大学・包装食品工学科

 

概要:本学は包装容器詰食品と飲料の製造に特化した二年制単科短期大学である。定員35名の少人数教育を背景に,大学院や企業の現場レベルの専門的内容を学べる.明確な志や目的意識を持った学生にとっては短期間で高度な実学を修める場であるが,その一方で自分の将来や目標が明確でないまま入学した学生にとっては,学びと就業先が急に特化されることに戸惑いや困難を抱える傾向がある.このような学びの場への新入生の適応を促すため,また少人数教育の場で円滑な人間関係を築くため,「自分の将来を考え二年間の学びの目的意識をもつこと」「新しい仲間とコミュニケーションをとること」を目的として入学時オリエンテーションの一環として二泊三日の合宿研修を行った.二年目に入った本取り組みの成果と課題を報告する.

キーワード:初年次教育,オリエンテーション,コミュニケーション,目的意識,ピアサポート


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本学ウェブサイト内の新入生合宿研修報告

取り組みの背景

本学は学生数が少なく,教職員を含めてすべての人とあっという間に知己の間柄になる.これは逆に言えば逃げ場のない人間関係に囚われるとも言える.親友や伴侶に出会い関係を深められる一方で,卒業まで人間関係に苦しむ学生も見受けられる.そこで,まだ人間関係が固定していない時期にできるだけ多くの人とコミュニケーションを取り,円滑な人間関係を築くきっかけとしてこの試みを企画した。
 
もう一つの目的は,大学における学びの目的が明確でないまま「なんとなく」大学に来てしまった学生に対し,自分の将来を考え大学に通う意味や目標を持ってもらうことである.本学は二年制短大でありながら,専門度の高いカリキュラムを提供しており,就職率は100%であるが非常に限定された業界に絞られる.大学の学びへの適応と,キャリアの方向性を考える一助とするため企画した.

取り組みの位置づけ

4月初頭に行うオリエンテーションの一環として全ての新入生を対象に実施した.単科大学であるので必然的に全学的な取り組みとして行っている.

教員と職員で構成される学生支援委員会が企画運営し,7名の教職員,6名のピアサポーター(2年生),そして新入生38名(内1名欠席)で実施した.合宿場所である「紀泉わいわい村」のスタッフにもご協力頂いた.

2010年に試験的に日帰り学外研修を実施し,その経験をふまえ2011年から今の形で合宿研修をスタートした.今年は2回目の試みであった.

取り組みの内容・方法

YMCAが運営する紀泉わいわい村において合宿研修を実施した.わいわい村は里山における数十年前の生活を模した研修場である.本年は,入学式が終了した翌日4月4日から二泊三日の研修を行った.総経費は約75万円であった.
 
 
研修プログラムの概要は以下の通りである.
 
1日目
入村式,開講式,自己紹介,コミュニケーションタイム
 
2日目
大学創設者と本学の特徴についての講演,グループディスカッション,履修や資格を考える
 
3日目
決意表明,研修評価,閉講式,閉村式
 
 
里山の民家を模した家屋に十名前後を単位として宿泊し,最終日の昼食を除き全ての食事は自炊し,毎回火を起こすことからはじめた.風呂もいわゆる五右衛門風呂である.
 
テレビもなく携帯電話もほとんど通じず,照明も少なく薄暗い民家に寝泊まりし,静かな山間に流れる川の流れや鳥の歌を背景に普段とは全く異なる生活環境で実施した.
 
なお,コミュニケーションのセッションでは大阪大学平田オリザ先生の講習会(関西地区FD連絡会議共催)で学んだ手法を取り入れた.

  

わいわい村の様子

 

  

へっついさんで火を起こしお釜で料理をする.夜はいろりを囲んで暖をとる.

学生に対するインパクト

火をおこすところから始めて自炊し風呂に入る体験は,多くの学生に強い印象を与えていた.ものづくり,食品工業にたずさわるであろう学生にとって貴重な体験となったと言える.合宿研修最終日に振り返りを行い,研修中の自己評価や研修自体の評価をしてもらった(図1).


1.コミュニケーションについて

全ての学生が肯定的な評価をしており,本研修が非常に効果的であることが示唆された(図1).実際に,なかなか他人と話せなかった学生が次第に打ち解けていく様子を見ることが出来た.以下,新入生の自由筆記意見から抜粋する.

  • 周りの人とコミュニケーションをとることで不安だった気持ちが減った
  • 自分は人とのコミュニケーションはあまり好きではないですが、この研修で人とのコミュニケーションがとても楽しく話すことができました
  • 最初は一人としか話せなかったけど、話せる人が増えたし、先輩とも話せた
  • 人と話すのが苦手で、はじめはなじめないと思っていましたが、周りの人と、少しづつ話せるようになってきた
  • コミュニケーションや行動をする事で自分の考え、価値観が広がったと思う

 

2.将来の夢や目標について

「自分の将来について真剣に考えたか?」「夢や目標が明確になったか?」「カリキュラムや資格,2年間の学業への理解が増したか?」を問うたところ,八割以上の学生が肯定的な回答をしており一定の効果があったといえる(図1).ただし,「将来の夢や目標」は最も否定的な回答が多かった.新入生にとって目前の目標(単位を取るとか資格を取るとか)は明確だが,長いスパンの夢や目標となると分からなくなる傾向が見て取れた.また,履修相談や履修届作成を行った効果があり,カリキュラム等への理解は効果が高かったようである.以下,新入生の自由筆記意見から抜粋する.

  • 将来の目標を達成するために2年間で何をすればいいかについて考えられて、意欲がでてきた
  • 将来についての意欲、学校での学習に意欲を持った
  • 将来について考えるようになりました
  • 他の人の話を聞いていて、夢を持つことが大切だとわかりました
  • 自分はもうすぐ社会に出るという気持ちになった

 

図1.学生が回答した研修評価票の結果まとめ.参加した全ての新入生が回答し,結果をパーセンテージで示した.視認性を良くするため否定的な回答は軸のマイナス側に示した.

 

 

3.生活態度について

本学では学生の人間性を重要視した教育を行っており,研修中の態度を問うた(図1).挨拶等の基本的な礼儀は全ての学生が実践できたと回答し,整理整頓や後片付けもほとんどの学生が実践できていた.普段と全く異なる生活であったことを考えれば,時間を守ることもかなり実践できていた.以下,新入生の自由筆記意見から抜粋する.

  • 物事を行うとき、効率よくしようと考えるようになった
  • 社会的ルールなどあたりまえの事(ができた)
  • ご飯作りや片付けのとき、他にやることはないかなど考えて行動できた
  • もっと時間にゆとりをもって行動することを心がけるようになった
  • 自分から何かやることを見つけて行動できるようになりました。
  • 片付けなどのめんどくさいことも、率先して行うようになった。

 

4.研修プログラムおよびピアサポーターについて

本研修自体に対する評価と,ピアサポーター(2年生)に対する評価を問うたところ,ピアサポーターに対する高評価が目立ち,八割以上の学生が最高の評価をした.実際,当初の期待を遥かに上回るピアサポーターの活躍ぶりだった.本プログラム自体に対する評価もおおむね高かったが,改善点や要望は寄せられており来年度に役立てたい.


5.ピアサポーターの振り返りから

「二泊三日の宿泊合宿は思った以上に楽しかったです。最初は自分自身硬かったと思いますが、1年生もそうでした。誰ともグループになっていない人には、できる限り話しかけましたが時間が立つにつれそういう人も少なくなったと思います。食事班や宿泊班がいろいろ変わったおかげでたくさんの人と話すことができたと思います。一人相手に一時間話し合うこともありました。しっかり話も聞いてくれて、また質問を投げかけるとかえってくる、そんな感じが好きでした。<中略>ピアサポーターとして役立てたかはわかりませんが、このような参加の機会をいただき、ありがとうございました。今回の1年生の中にピアサポーターを来年やりたいと思ってくれる人がいて良かったと思いました。」

「良かったことは、1年生と仲良くなれたし、自分が1年生でしてきたことのアドバイスができて良かったと思います。1年生のみんなが仲良くしてて、自分が必要ないなと思った時がありました。1年生の女子と部屋が一緒だったので、気まずかった。今回、ピアサポーターをして、しんどい時もありましたが、一年生とのコミュニケーションをとることで、自分自身人見知りをなおすことが少しでもできたのではないかと思います。楽しかったです。」

  

コミュニケーションタイム,講演の様子

 

  

履修相談の様子

 

  決意表明を寄せ書きに

本取り組みの課題

1.合宿研修の目的について

そもそも合宿研修の目的は現在挙げている2点でよいのだろうか?学内で行っているオリエンテーションとのバランス(内容と日程)をとりつつ合宿研修をより効果的なものにしていく必要がある.特に,大学の夢や目標を意識してもらい,その上で大学の特徴を良く理解し,履修につなげるというプログラムの流れは,実際にはなかなか難しい.特に学生にとって自分の夢を持つということは難しいようである.このプログラムの流れの再検討や,実施方法の工夫など,次回に向けての大きな課題である.

 

2.実施時期について

コミュニケーションを深めるという意味で,時期的に早すぎるのではないかと言う意見もあった.人間関係が固まらない入学直後に実施するのか,ある程度顔を覚えてから実施し関係を深める機会とするのか検討する.また,この時期に実施するとまだまだ気温が低い(暖房は無い).新しい環境にきたばかりの学生にとって負荷がどの程度大きいのかも気になるところである.

 

3.その他

本研修はまだ2回しか行っておらず,これを体験した学生がその後どのように成長したか、していくかを評価する必要もある.また,運営上も細々と問題点が出ており,修正を重ねてよりよい合宿研修にしていく必要がある.

取り組みの視点

以下の3点について是非コメントや助言を頂きたい

1. 新入学生間のコミュニケーションを図る点からみた最良の開催時期は?

2. 将来の夢や目標を大学における学びに結びつけ考えるのに巧い仕掛けはないか?

3.研修の目的を上記2点にすることの是非

資料・文献

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